バスタブ
さくらんぼ
1
わいわいがやがやと宴は盛り上がっています。座布団の上に正座する僕、生嶋庫太郎(いくしまこたろう)はパイナップルを口に運ぶ。僕はパイナップルが好きです。
でも、もっと好きなのは、さくらんぼ。今日も、果物のたくさん盛られた大皿の端に、それはありました。大皿の手前に配置されたパイナップルはすぐに手が届くけど、さくらんぼには、膝立ちになって腕を凄く伸ばさないと届きません。生嶋の屋敷で食べるさくらんぼは高級品なのか、凄く美味しいのに。
会席料理もあらかた食べ終え、お酒と肴を口にしながら談笑する大人たちは、きっと僕なんか気にしていない。そう自分に言い聞かせても、引っ込み思案で恥ずかしがりで内気な僕は、そんなに食べたいのかと思われてしまうことが酷く怖くて、動けなくなります。去年から中学生だというのに、さくらんぼが好きだなんて。子どもっぽくて恥ずかしくて、嫌になります。僕の舌は幼稚です。偏食ではありませんが、大人の好む味、というのが僕は苦手でした。僕が好きでない牡蠣や海栗を、向かいに座っている小学生の姪の絵梨ちゃんは美味しいと言って食べています。
子どもっぽいのは舌だけではありません。僕は可愛いふわふわのぬいぐるみや、小動物が好きで、そのことをクラスの友達には隠しています。いつか絶たなくてはならないと思っているのですが、好きなものは好きでどうしようもなくて、ごく少数のふわふわの精鋭に絞って、いつも持ち歩いていたりします。
こんなのじゃ、だめなのだけど。
僕の家、生嶋は、代々エリートの家系です。こうやって毎年恒例の新年会では、医者、弁護士、経営者、教授、といった肩書の大人が集まります。身内の集いということで皆くだけていますが、自分もいずれは生嶋の名に見合う地位につかなくてはならないのだと、毎年プレッシャーは重くなるのでした。僕は自分の子どもっぽさが恥ずかしくなります。
考え事をしている間に、また少し、さくらんぼが減っていました。ぼんやりしているから、いつも気づいた頃には、僕の欲しいものは誰かのものになっています。
唇と舌がぴりぴりしていましたが、僕はまた、パイナップルを口に含みました。甘酸っぱいのは、さくらんぼと同じ。
さくらんぼを見ていると、誰かが指で触れました。長い腕。細いけど、決してか弱くはない指が、つやつやの桃色の粒を摘みます。白い清潔そうなワイシャツの袖から、高級そうな腕時計が覗きました。僕は、指の主を仰ぎ見る。端正な横顔。切れ長の二重の目は、摘んださくらんぼをひとしきり眺めた後、僕を見ました。
「食べたかったんだろう?」
ほら、と僕に摘んださくらんぼを見せる。あーん、と言われて、僕は口を開きました。口の中に甘酸っぱい、でもパイナップルとは全く違う食感と味が広がりました。
「そんなに美味しい?」
くすりと笑う、従兄の義人(よしと)さん。僕は真赤になって口元を手で覆います。よりにもよって義人さんに、さくらんぼを好きなことがばれるなんて。
2
さくらんぼみたいな美味しそうな唇が開かれる。俺は果柄を取って、庫太郎にさくらんぼを食べさせた。庫太郎はさくらんぼを一粒、美味しそうに食べる。そんなに美味しい?と問えば、頬までさくらんぼ色にした。可愛い。さくらんぼの種をころんと自分の小皿に落として、庫太郎は視線を僅かに彷徨わせて言う。
「どうして、わかったんですか・・・?」
僕がさくらんぼを食べたがっていること、と庫太郎は小さな声で言った。もう覚えていないのか、と俺は少し落胆する。庫太郎は小さかったから、無理もないのだろう。
現在12歳の庫太郎と、30歳の俺。従兄弟なのにこれ程までに歳に差があるのは、俺が7人兄弟の長兄の息子で、庫太郎の父がその7人の末弟だからだ。それでも俺自身は次兄だから、庫太郎には俺の兄というもっと年上の従兄もいる。それだから、庫太郎にはまた、年下だけでなく年上の甥や姪もいた。
「毎年美味しそうに食べてるのを知ってるし、今年は案の定食べたそうな顔してたから」
嘘ではない。毎年、美味しそうにさくらんぼを食べる庫太郎が見られるから、俺は我慢して生嶋の新年会に参加している。
生嶋家の新年の宴は、毎年一月の中旬に本家の屋敷の広い和室で行われる。土曜日曜の二日連続で昼と夜に宴が行われ、余程の用事がない限りは、いずれかの宴には参加し、本家の者に分家の者が新年の挨拶をするのがしきたりだった。分家が様々に高級な土産を持って参じる代わりに、本家は豪華な会食料理で持て成す。
俺はこのしきたりをずっと煩わしいと思っていた。代議士の叔父など一部酒癖の悪くない人間は存在するものの、身内での会食と言うこともあり遠慮のない権力者達は酒に身を任せ楽しんでいる。中学生の時には酒飲みの親父達に絡まれてうんざりしていたものだ。皆同じだったようで、本家の人間である俺は必ず顔を出すが、現在社会人や大学院生となった俺の従兄姉達はこのところサボタージュしがちである。
「義人!お前彼女はいないのか?」
もう結婚して身を固めることを考え始めてもいい歳だろう、と顔を赤くした叔父が言う。叔父達の話は自分の事業の話、愚痴、経済、環境問題、蘊蓄、最近嵌まっていることなど多岐に渡るが、どうやら定番の息子娘の将来の話になったらしい。
「・・・いませんね、残念ながら」
一瞬の間に敏い叔父達がわあわあと盛り上がる。実はいるんだな、問題は家柄か?それとも性格があと一歩か?少しくらい気が合わないのは気にするな、この人の言う通りだ義人君、俺達夫婦だってお互い完璧な人間じゃあないが一生を連れ沿うとドラマが生まれてねぇ、そうそう、ぼくの所なんて見てみなさいお世辞にも生嶋らしい順風満帆な夫婦とは言えないがね、こうやって義兄さん達にもよろしくしてもらってだね、お、上手に持ち上げるね流石は弁護士弁が立つ・・・。楽しそうな叔父達に、顔に笑顔を貼りつけ適当に相槌を打つ。
「本当にいないなら、お見合いなんてどうだい、気立てのいい娘を紹介しよう。君はその若さで既に新しいワクチンの開発にも携わったし、日本だけでなく世界を救っている。高給取りでしかもその美貌なら、嫌がる女性はいないだろう」
寧ろ君を先方に紹介する私の鼻が高いくらいだよ。隣に座る叔父が肩を叩いた。
「ありがとうございます、実は今、研究に忙しくて、女性と仲を深める時間的余裕がなく・・・」
やんわりと断る。残念だねぇ、と叔父は俺の杯に酒を注いだ。
庫太郎はもう席を立ったらしく、隣にいなかった。
3
いっぱい従兄姉がいるけど、昔から僕が一番慕っていたのは義人さんです。優しくしてくれる義人さんが、僕は大好きでした。
従兄姉たちは皆、一番幼い僕を可愛がってもくれましたが、よくからかいました。
小さかった時の記憶は曖昧ですが、広い本家の屋敷の中で鬼ごっこをして遊んだ時のことを覚えています。変わったルールで、僕以外の参加者は全員鬼でした。それに、タッチされても僕は鬼になれないどころか、皆は僕を捕まえてくすぐるのです。最初はくすぐられて楽しいのですが、ずっとくすぐられているとくすぐったいのが辛くなって、僕は泣いてしまうのでした。この鬼ごっこは新年、屋敷に集まった時の恒例の遊びでした。変な遊びだということは幼いながら気づいていたのですが、仲間外れにされるのを怖れた僕は、決して嫌だとは言いませんでした。
この鬼ごっこは僕と中学生高校生の従兄姉達の遊びで、大学生の2人は参加していませんでした。泣いている僕をあやすために、皆が二階の自室で勉強している義人さんを呼びに行くのです。義人さんは僕を泣きやませるために、抱っこしてくれるのでした。
伯父さんが義人さんにお見合いを勧めています。義人さんももう30歳。結婚していてもおかしくない歳です。生嶋の人間にしては遅すぎるくらいかもしれません。また僕の欲しいものは誰かのものになってしまうのでしょう。
ふと果物の大皿を見ると、さくらんぼはもうなくなっていました。
座敷を出るとお酒の瓶を持った本家の伯母さんに出会しました。
「あら、庫太郎ちゃん、もうお腹いっぱい?」
にこにこ、綺麗な人です。着物がよく似合う。僕はご馳走さまでしたと挨拶をします。ぼーん、と大時計が鳴りました。
「もう10時なのね。おちびちゃん達はだいたいお風呂に入ったから、庫太郎ちゃんも入って来なさないな。いつものお部屋にお布団が敷いてあるから、あったかくして寝るのよ」
おやすみなさいと言い合って、僕は長い廊下を歩きます。広い台所でお義姉さん達と語らいながら片付けをしているお母さんに一言残します。伯母さん達におやすみなさいを言いました。生嶋のお嫁さんは皆綺麗、と近所の人達が言っているのを聞いたことがあります。確かに、皆凄く綺麗です。
義人さんのお嫁さんになる人も、きっと綺麗。
僕は酷く悲しく感じながら、パジャマなどが入った自分のリュックを取って、お風呂場へ向かいました。
お布団に入ってもぞもぞします。眠れませんでした。もう12時を回っていましたが、お父さんもお母さんもまだ戻って来ていません。お布団はぬくぬく暖かいのに、寂しくて、悲しい。足音がしました。お父さんとお母さんでしょうか。僕は襖を開けて廊下を覗きます。
「庫太郎?」
きゅんとしました。義人さんの声。
「まだ寝てなかったのか?」
義人さんはいびきをかく僕のお父さんを担いでいます。僕の姿を見て、硬直しました。一瞬遅れてその理由に気づいた僕は、また顔を真っ赤にするしかありません。
さくらんぼといい、今日は最悪です。
4
パジャマなのだろう、黒いボアの上下を着ている庫太郎。被っているフードには猫耳がついている。真赤になって、フードを慌てて外す。可愛いのに勿体ない。いや、また被せればいいだけだ。そんなことを考えながら、叔父さんを布団に寝かせる。恥ずかしそうに眉尻を下げている庫太郎の手を取った。廊下に連れ出す。
「?義人さん、どこへ行くんですか?」
俺を見上げる庫太郎を、俺は見下ろした。小さな素足の指先が冷たそうで、昔のように抱き上げる。小さい上に、軽い。肌から甘い匂いがする。本当に中学生男子なのだろうか。酔ってるんですか?と慌てている庫太郎を無視して、俺のために用意された和室へ移動する。
庫太郎を布団に下ろす。ネクタイと腕時計、ベルトを外し、庫太郎を抱きしめ掛け布団を被った。
「義人さん、酔っ払ってるんでしょ・・・」
困り顔の庫太郎が俺の腕の中でもぞつく。ボアの暖かい庫太郎。フードを被せた。猫耳がついて可愛さが倍になっている。
「可愛い・・・」
ぎゅっと抱き締めた俺は、昔からやってみたかったある事をやってみた。
「ひゃ、やだやだぁ・・・っ、よしとしゃ、ひゃぁっ・・・も、ゃぁ・・・」
暴れる庫太郎にのしかかって擽り続けると、黒目がちな大きな瞳をじわじわと潤ませ始める。頬を上気させて、はふはふと息苦しそうに喘ぐ。従弟妹達が屋敷でやっていたエロい鬼ごっこ。最後に慰めるのも役得だったが、俺はずっと無邪気に庫太郎を触る従弟妹達が羨ましかった。
「ん、ひく、ふぇ・・・」
ぽろぽろとさくらんぼ色の頬を涙が伝う。嗚咽を漏らし始めた庫太郎にやりすぎたと気づく。抱きしめた。庫太郎の涙でワイシャツが湿るのを感じる。
「よしとさん、ひどぃ・・・」
俺は庫太郎の額に唇を落とした。後悔こそないが、ばつの悪さに苦笑する。
「・・・さくらんぼ、食べに行く?」
目を見開いて、庫太郎が俺を見る。思い出した?と問えば、こくこくと頷いた。俺はさくらんぼを育てている。今日の夕食で果物の大皿に載っていたのも、俺が収穫したものだ。
鬼ごっこの後、従弟妹達は泣きじゃくる庫太郎を連れて俺の部屋のドアを叩く。俺は彼らを部屋から追い出して、だっこしてとせがむ庫太郎を抱き上げるのだ。唇を寄せて泣きやませた後、庫太郎にコートを着せ、手を引いて、寒い庭に出る。裏庭には小さなビニールハウスがあった。高校の時から行っている、俺の個人的な実験のためのものだ。その中ではさくらんぼを育てていた。真冬、年始に実をつける冬獲れのさくらんぼ。他の従弟妹には秘密だった。
手間も維持費もかかるが、実験が終了した今も育て続けているのは、庫太郎の喜ぶ顔が見たいからに他ならない。
5
僕の一番好きなさくらんぼは生嶋の本家でしか食べられません。ずっと、忘れていた記憶。義人さんとビニールハウスとさくらんぼの木。
「きょうのさくらんぼも義人さんの?」
去年も、一昨年も、その前の年も、大皿に盛られていたさくらんぼ。義人さんはずっとずっと前から、僕がさくらんぼを好きなのを知っていたのです。
「今から食べに行く?」
僕の頬を撫でながら、義人さんが言いました。僕は首を横に振ります。もっとくっついていたい。義人さんにぎゅっとしました。
「義人さん、すき・・・」
僕は義人さんの首に、キスをしました。
ちゅ、ちゅ、と唇を何度も重ねて、僕は義人さんとキスをします。義人さんの舌が、ぺろりと僕の唇を舐める。
「甘い・・・。ずっとこたのこと、食べたかった」
そう言って義人さんは僕の髪を撫でました。こた。義人さんは小さい僕をこたと呼んでいました。あやされていた、あのときと同じ。
「食べていい?」
頭がぼぅっとします。もっと唇を気持ちくして欲しいです。
「食べてぇ・・・」
僕はおねだり。義人さんの温かくて硬い手がパジャマの中に入って、僕の脇と胸を撫でます。何も着てないの?と問われて頷きます。ふわふわが気持ちいいので、僕はこのパジャマを裸のまま着ています。たくしあげられて、お腹も胸も全部見られてしまいます。恥ずかしくて、震えました。
「よしとしゃん・・・ひぁぁ・・・」
ちゅぅ、と乳首を吸われて、ぺろぺろ舐められます。くすぐられたときみたいに、腰が少しひくひくしました。昔、皆にくすぐられたときにはなかった感覚でした。するりと義人さんの手がズボンの中に入ります。義人さんの手が直接おちんぽに触れました。義人さんは吃驚した顔をします。
「下も履いてないんだ?」
知られてしまって凄く恥ずかしいけど、僕はそれどころではありませんでした。
「ぉちんぽ、だめぇ・・・さわっちゃ、ゃ・・・」
もみもみする義人さんの手。僕の腰はびくびくして、くすぐられてるときみたいな声がでてしまいます。
「ひゃ、ぅ・・・ぉちんぽ、へんになっちゃ・・・だめ、だめぇ・・・っ」
「だめじゃないでしょ?食べてって言ったのはこただ」
唇が額に落ちてくる。するする、義人さんはズボンを脱がせて、僕のちょっとかたくなったおちんぽを口に入れました。
「きゃふ・・・ん、ん・・・ぁぁん・・・」
きもちい。頭が変になりそうでした。くちゅくちゅ、とお口でおちんちんをいじめられます。
「ぁ、ぁ、ゃぁん・・・っ、なんかでちゃ、でちゃぅ・・・っ」
おしっことは違う感覚。義人さんは僕の出したものを飲んだようです。ぴくぴくしている身体を撫でられて、僕はふわふわしていました。
「射精するの初めて?」
「しゃせ・・・?」
目尻に溜まった涙を指で拭われて、義人さんが笑う。もっと気持ちいいことしようか。囁かれて、僕はどきどきしながら頷きます。
「おちんぽ、だめぇ・・・」
「どっちの?」
義人さんが僕の耳を舐めて、言いました。僕のおしりに入っている義人さんのおっきいおちんぽも、義人さんの手に揉まれている僕のおちんぽも。
「どっちも、だめなの・・・ぁ、ぁ、ひゃぁぁ・・・っ」
ごりゅ、と僕の中を熱いおちんぽが擦ります。僕はまた、しゃせいしました。
「ほんと、かわいい・・・」
ぎゅっと僕を抱き締めた後、義人さんも僕の中にしゃせいします。僕は気持ちよくて、震えました。
「っはぁ・・・ね、こた、さくらんぼを食べに行くの、明日の朝でもいい?」
義人さんが言います。僕は義人さんのおちんぽで気持ちよくなりながら、もしかして、と思う。今までの僕なら、想像することさえもおこがましいと思えるようなことでした。
「よしとさんのさくらんぼは、ぼくのため・・・?」
今気づいたの?と笑う義人さんが、僕の髪を撫でました。