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ネクタイも結べない



鞄を肩に、阿久津大和(あくつやまと)は欠伸をした。耳の下までの長さの緩くパーマがかけられた黒髪、特に後頭部のものをぐしゃぐしゃと掻き回す。片手で前髪をかきあげた。
「あー・・・まだかよ。あんまりおっせぇと置いてくからな・・・」
左足に体重をかけて、右足のスニーカーの踵でぐりぐりと地面をえぐっている。榎本至(えのもといたる)を待つ大和の、毎朝の癖だった。大和が立っている榎本家の玄関前の地面には、不自然な窪みがいくつも残っている。
「大和、大和、まって・・・!」
ばたばたと家の中から音がする。来たか、と呟いて大和は顔を上げた。がちゃりと開いたドアから至が顔を覗かせた。明るい茶色の髪は所々跳ねている。
「よかった・・・。おはよう、いつもごめん」
大和は申し訳なさそうに自分を伺う至のネクタイを見て、ため息を吐く。結び目が小さすぎて不恰好なことこの上ない。
「あんだけ人を待たせといてこれかよ。・・・寝癖も最悪。いいか、今日の昼も特訓だからな。つーか、特訓始めて何日目だっつー話・・・」
呆れながらも至のネクタイに手を伸ばす。至は少し頬を染めて大和の男らしい手を見つめる。大和は慣れた手つきでネクタイを締め直した。
「・・・できたぞ。おい、返事は?」
大和を見つめて、至はこくりと頷いた。
「特訓がんばる。ネクタイありがとう」
可憐にはにかむ至。大和も微笑んだ。寝癖を収めるように髪を撫でてやる。




「ごちそうさまでした。・・・大和、」
至は隣に座る大和を伺う。大和は無糖の珈琲を飲み干した。
「まず今朝と同じ方法で結んで見せろ。どうしてあんなことになったんだ?」
昼食を食べ終えた至が、大和にネクタイの結び方を教えてもらうのはほとんど恒例化している。
「今日も結べなかったのかよ」
「榎本は本当に高校生なのか?」
周りのからかう言葉に少し傷つきながら、大和が見ている前でネクタイを外す。結び直した。ネクタイの結び目は異様なくらいに小さい。周りの男子は至に同情の眼差しを向けた。
「・・・まるでなってねぇ。・・・ほら、教えてやるから来い」
大和が自分の膝を叩く。至は教壇に座る大和の足の間に収まった。
「・・・その体勢が一番教え易いってのはわかるぜ。わかるが、毎日毎日、見てるこっちが恥ずかしいだろうがよ」
「イチャイチャしてるようにしか見えないからな」
いつもの如く散々な言われようだが、大和に気にする様子はない。
「うっせぇな。こっちは真剣なんだよ」
言いながら、大和は至のカッターシャツの襟を立てて、ネクタイをかけた。
「いいか?ちゃんと見てろよ」
後ろから手を回し、至にネクタイを結ぶ動きを見せる。至の胸元を覗くようにしてネクタイを結ぶ大和。顔が頬のすぐ横にある。説明をする大和の唇も近い。至はどきどきしながら、ネクタイを結ぶ大和の手の動きを見ていた。
「後は形を崩さないようにしながら下の方のネクタイを引いて結び目を上げる・・・完成だ。次、自分でやってみろ」
頷く。左を短く持って、右を回す。それから。
「ぁ、ぅ、わかんなぃ・・・」
どうしてできないのだろうと馬鹿な自分に嫌気が差した。流石の大和ももうお手上げかもしれない。見放されてしまうのではと思うと、涙で目が潤む。
「しゃーねぇな。誘導してやるから・・・」
耳をくすぐったのは優しい声。至は頷いた。


大和が何度丁寧に教えても、至が一人でネクタイを結べるようになることはない。至は深層心理、無意識の内から大和に依存している。大和がいる限り、至が一人でネクタイを結べるようになることは、ない。




いつものように、至は大和の足の間に納まっていた。大和の手が、至のネクタイを後ろから結んでいる。綺麗な結び目ができた。お礼を言おうと振り返る。至の唇に大和のそれが重なって離れた。ネクタイを結んでいた手はズボンに潜り込んで、小さな性器をやわやわと揉む。
「大和、やまと・・・ん、ぁ、だめ、だめなの・・・」
至は涙ぐんで腰を震わせた。大和に触られていると思うと、性器が膨らむ。
「ひ、ん・・・っ」
くりくりと先っぽを優しく擦られた。
「ぁひっ、ゃら、ゃ、おちんちん、もらしちゃ・・・ぁ、ん、ひぁぁっ・・・」
パンツの中で何かを漏らす感覚。至は射精の余韻に甘い息を吐く。

がばっと上半身を起こした。
「・・・ゆめ・・・」
股間が濡れている。
「ぅ・・・」
夢は願望だという。恥ずかしくて涙が出た。以前から気づかないように、見てみないふりをしていた。自分を弟のように構ってくれる大和には、決して知られてはいけないことだ。そういう目で見ていると、知られてはいけない。気持ち悪がられてしまうに違いないと思う。
至は、大和が好きだ。


自然に自然に、と頭の中で反芻する。ドアを開けた。
「大和、おはよう」
「はよ。何だ、早いと思ったら・・・ネクタイはどうした?」
大和に尋ねられ、見つからなくて、と嘘を吐いた。
「学校で借りることにする」


至は教室に行く前に職員室に寄り、ネクタイを借りた。大和には職員室の外で待って貰っている。
「ネクタイね。確かここに貸し出し用のがあった筈・・・。あったわ」
担任の女教師が棚からネクタイを取り出す。至は少しためらってから、口を開いた。
「・・・先生、あの、ネクタイ、結んでくれませんか?」
若い女教師はあらあらと笑って、至の襟を立てた。
「いいわよ。まさか私が榎本王子のネクタイを結ぶ日がくるなんて。執事の阿久津君はどうしたの?」
喧嘩?とネクタイを締めながら問う。
「あら、その顔。知らなかったの?うちのクラスの名物なんて言われてるのよ、あなた達。主に女の子にだけど」
ふふ、と教師が笑んだ。




大和と距離を置かなければ、と至は更に強く思う。王子と執事だなんてとんでもない。周りには大和が自分の世話役に見えている、そう思うと申し訳なくていたたまれなかった。大和は、きっと不本意に思うだろう。

「至、ネクタイ、」
結べたのか?と大和に問われ首を振る。
「お願いして比企先生に結んで貰った」
微笑んで見せた。


机をくっつけて食事を取る女子とは対照的に、今日も男子達はパンや弁当を手に教壇の辺りを陣取っている。至がトイレに立ったのを見て、一人が大和に言った。
「おい大和、今朝至が比企にネクタイ結んでくれって頼んだんだってな。あいつもなかなかやるじゃねぇか」
いかにもな雰囲気のクラス委員長が、それを聞いて眼鏡を指で押し上げた。
「ほう、榎本はああいう女性が好みなのか。そして、阿久津が今朝からやたら機嫌が悪いのもそのせい、と考えれば全て辻褄が合う」
隣に座る友人が大和を肘で小突く。
「何だ何だ、至もついに大和離れの時か。可愛い弟の門出を祝ってやれよ、お兄ちゃん」
冗談めかして笑う。大和は黙ったまま、無糖の珈琲を一気に飲み干した。無言で缶をゴミ箱に入れて、教室を出ていく。
「・・・あれは、相当キてるな」
一同が頷いた。


「あれ?大和は?」
帰ってきた至は不思議そうに首を傾げた。心の中では少し安堵しているのだが、顔には出さないように努める。
「さぁなぁ。あ、そういや英語の宿題やって来たか?今日は至から当たるだろ」
「うん。ちゃんとやった」
珍しいじゃん、と誉められる。
「はは、至のことだからやったくせに机に置いてきた、とか・・・」
友人の言葉にさぁっと青ざめる。
「い、至?」
「・・・机に置いてきたかも・・・」
鞄を探す。案の定英語のノートはなく、至はしゅんとした。いつもの至なら、ここで大和に頼る。
「委員長、あの、ノート、見せてください。だめ?」
「あ?ああ、構わないが」
指名されるとは思わず驚いた。その時は、大和が不在だからな、と皆納得したのだが。




「なぁ、大和。おめー最近マジでカルシウム不足なんじゃないか?珈琲ばっか飲んでないで、ほれ」
紙パックの牛乳を渡される。
「はぁ?つか何で1リットルなんだよ。飲めねぇ」
「俺とラブラブしながら飲めばいいじゃん。すぐになくなるぜ」
二本のストローを出した友人、村山。
「・・・きめぇ。俺に構ってくれるな」
大和は心底うんざりした様子で携帯をいじり始める。村山は紙パックを開けてストローを挿すと、牛乳を飲んだ。
「どうして大和に頼らなくなったんだ?」
村山の視線の先には委員長と至。最近至はよく委員長に勉強を教わっている。それだけではなく、最近の至は、ネクタイの結び目をほどかずに着脱するという技まで体得した様子で、大和の出番がまるでない。大和の眉間の皺が深くなったのを村山は横目で眺めた。
「勉強なら大和の方が教えるのうまそうだけどな・・・。委員長は即暗記の天才型だから、至がどうしてわからないのか、わからないみたいだし」
「・・・だから?」
苛々している大和。村山はため息を吐いて見せた。
「見た目に似合わず不器用だな。・・・至が頼った奴に一々嫉妬するくらいなら、ちゃんと話し合えばいいじゃん」
「嫉妬?」
質わりぃな無自覚かよ、と村山は牛乳を吸いながら思う。
「嫉妬だよ。第一、自分の世話焼きが至にしか発動されないことに疑問を持つべきだろ」


放課後、大和は至の手を取った。
「大和・・・?」
至は困ったように眉を寄せる。
「少し、話がしたい」

大和が至を連れてきたのは自宅の自室だった。大和は至の家に近いマンションに、キャリアウーマンの姉と住んでいる。
「俺のことが嫌いになったのか?」
至はふるふると首を振った。
「なら何で急に避けるようになったんだよ」
「大和、知ったら、きっと僕のこと、嫌いになる・・・」
「はぁ?意味わかんねぇよ。なるわけねぇだろ」
ぐ、と至は涙を堪えた。
「どうして言う前から嫌わないって自信満々なの・・・?」
至は俯く。
「俺のことを嫌いになったって言い出したらどうしようかと思ったが、嫌われてないなら、至が何を言い出しても嫌いにならない自信がある」
抱き締められていた。

「好きだ、至」

囁く声。耳を疑った。




「嘘・・・」
「嘘じゃねぇよ。・・・今度は至の番だな」
どうして至は俺に嫌われるんだ?耳をくすぐる声に震えた。
「・・・僕が、僕が大和に頼りきってるから、女の子達が大和のことを僕の執事って・・・」
「は?・・・言わせときゃいいじゃねぇか。強ち間違ってもないしな・・・。それだけかよ」
小さく首を振って、至は大和を上目遣いで見る。
「僕、大和が好き」
「・・・嫌いじゃないんだからそうなるだろ」
強く抱き締められて、至はぽろぽろと涙を流した。至の涙は、大和のカッターシャツを濡らす。
「そんなんじゃな・・・っ。おとこなのに、大和と、きすしたくて、えっちなこともしたくて・・・っ、大和、僕のこと気持ち悪いって嫌いに、」
顔を上げた至。なったでしょ、という言葉は、喉の奥で消滅した。
「やまと・・・?」
ぎゅうっと抱き締められている。
「キスもセックスも、していいのかよ」
至はぞくぞくして、眉根を寄せた。こくこくと頷く。耳たぶを甘噛みされた。
「はっ、気持ち悪い?・・・んなわけねぇだろ」


くちゅくちゅといやらしい音が響いている。ベッドに押し倒された至は大和のキスを受けていた。
「ん、ん・・・はぁ、ふ・・・」
大和の舌に懸命に応えようとしながら、気持ちよさに震える。
「ふ・・・ぁ・・・」
唇が離れた。
「至・・・」
ちゅ、と啄むだけのキスが降る。至は大和を見つめた。
「やまと、やまと・・・夢じゃない・・・?」
ぺたぺたと大和の頬に触れる。
「夢じゃねぇよ・・・。泣くな」
至の目尻に浮かぶ涙を舐めた。
「夢じゃねぇから、ちゃんと聞け。俺以外の奴に頼んな。ネクタイを結ばせるな。・・・いいか?」
頷く至。大和は微笑む。しゅるりと至のネクタイを外した。




裸に剥かれた至は、大和に身体を弄られていた。
「ん、ぁ・・・」
こりこりと指先でこねられた乳首は、白い肌の上でぷっくりと赤く尖っていく。大和は唇を寄せた。
「ゃ、なめちゃ、んぅ・・・ぁ、ぅ・・・」
至は立てた膝を擦り合わせる。股間が熱く濡れていた。乳首を舐めながら、大和がそこに触れる。
「ひゃ、ぁ、ぁ、やまと・・・」
ゆるゆると扱かれて腰が跳ねた。
「どうして欲しい?」
至は涙で潤む瞳で大和を見つめる。
「やまとのすきにして、きもちくして・・・」
可愛いおねだりに腰がずくりと重くなった。苦笑した。うんと甘やかしてやりたいと思う。
「ひゃぁ、ん、ゃまと、きもち・・・」
口に含んだだけで、至はぴくぴくと腰を痙攣させた。じゅぷ、と水音をさせて、唇と舌で扱く。
「はひ、ぅふ、ぅ・・・ゃぁぁ・・・」
白い腹を痙攣させた。くい、と僅かに腰を浮かせて、快感に耐える。爪先がひきつって、シーツの上を滑った。張り詰め顔を覗かせた先端を、舌先で擦って刺激する。
「んく、ぁ、でゅっ、でゅぅ・・・ひ、はぁぁん・・・」
射精した。大和は吐き出された精液をこくりと飲む。至は息を吐きながら、うっとりと言った。
「ぼくもやまとの、なめる」
いっぱいきもちくなってほしい、と小さな赤い舌が覗く。どきりとしたが、嬉しい申し出を断って、囁いた。
「至の中に入りたい」
だめか?と尋ねられ、至は真っ赤になって首を振る。
「いれて・・・」


ずちゅずちゅと貫かれて、至は官能に腰をくねらせる。あまりのいやらしさに、大和は激しく腰を打ち付けた。
「ぁ、ぁ!ひぁぁ・・・っやまと、らめ、はげしくしちゃ、や・・・っ」
ぱちゅぱちゅと聴覚を刺激する水音。恥ずかしさと快感に、至はいやいやと首を振る。大和は熱くうねるアナルの締め付けが強くなったのを感じた。
「尻、きゅうきゅうしてるぜ。気持ちいいんだろ?」
快感に涙ぐむ至を見下ろしながら激しく腰を使う。
「ごりゅごりゅ、らめぇ・・・っやぁぁあん!ぃっちゃぅ、おちんち、ぁ、ゃあぁ・・・っ」
射精する。至の精液は胸まで飛んだ。
「は、・・・」
息を吐く大和。至の中に熱いものが注がれた。



数分後の浴室で、至は早速大和に甲斐甲斐しく世話をされることになる。

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