バスタブ
ブルガリの、
1
僕、桐原纏(きりはらまとい)14歳は、家出をした。
中学2年の冬、僕は高校教師の両親が組んだ、あまりにもハードで勉強しかない苦しいスケジュールから逃げた。
1年の時からずっと勉強があるからとクラスメートの誘いを断り続けていたから、あだ名のガリ勉眼鏡は学校中に定着していたし、唯一の救いだった学ぶことを楽しいと思う気持ちさえ、いつの間にか消えていたことに気づいて。
何か違うものになりたくて、とにかく逃げたくて、家出をした。
それっぽい荷物を持って家を出てみたは良いけれど、行きたいと思うような場所もなかった。とりあえずと電車に乗って、駅を一つ。きらびやかな大通りは避けて、歩く。人も家もない廃ビル街のような道を歩き続けているうちに、何だか歌を歌いたくなった。テレビもろくに見ない僕は、音楽の授業で習った曲しか知らない。その中で一番好きな、ゴスペルの曲を歌った。
神よ、私を救ってください。
歌っていると涙が出た。自分のいた状況が、恵まれていたことに気づく。神に救いを求めるまでもない。神に救いを求めていいのは、もっともっと苦しんでいる人だ。
ただ・・・僕は、今の自分とは違う、別の何かになりたかった。
2
俺、八神彰(やがみあきら)16歳は、高校生だ。
少学校の高学年の時に父親のギターを譲り受けた。それからずっとギターを弾いている。
狂ったようにギターにのめり込み、音楽で飯を食うと言い出しかねない中学生になった俺に、親は地元の進学校に入学するよう言った。新しいギターが欲しかった俺は、入学を新しいギターを買ってもらう条件にした。
俺は今、長く世話になった父のギターを仕舞い、新しいギターを弾いている。
平日は毎日授業が7時限目まである異常な進学校でも、音楽をしている奴はがっつりと音楽をたしなんでいる。俺は校内でベースとドラムを見つけた。気があうことがわかった俺達はバンドを組んだ。
ベースは軽い性格でタラシの神奈川久志(かながわひさし)、ドラムは真面目で頭脳明晰な綾崎一彦(あやさきかずひこ)。2人とも良家の出らしく、玩具として与えられた楽器には、防音室もセットだったらしい。7時限の授業の後も自宅で楽器を弾いていたというその腕は、申し分ない。
俺はと言えば、一般のサラリーマンの息子。小学生の時から変わらず、家から徒歩20分の廃ビルでギターを掻き鳴らしていた。
学校が忙しいため、3人集まって弾けるのは休日だけだ。
俺は今日も廃ビルで一人、ギターを鳴らすべく、星空の下を歩く。順風満帆だ。望むなら、
「神様、俺にボーカルをください」
呟く。
歌声が聞こえた。
3
涙は流れたけど、声は震えない。歌いきった僕は、白い息を吐いた。いつの間にか雪が降っている。
「こんばんは」
背後から聞こえた声に驚いて振り返る。
「隣町の中学生がこんな時間の廃ビル街に何の用だ?」
背の高い男の人。暗くてよく見えないけれど、着ている制服は見覚えがある。父が勤める高校の生徒だとわかった。何か変わった形のものを背負っている。
「家出か?」
どうしてわかったのだろうと目を見張ると、男が笑った気配がした。
「家出の歌姫。・・・これは、神様から俺への贈り物か」
訳の分からないことを言って、僕の手を引く。
「何、どこへ・・・」
「制服姿の間抜けな家出少年が雪をしのぐ宿。今夜は大雪らしい」
それでも俺の手を振り払うか?と僕を見る。さっきよりも近くてよく見える。かっこいい顔。僕は見惚れて黙って、廃ビルに連れられていた。
「俺の名前は八神彰。名前は?」
「きりはら、まとい・・・」
天井の電気は既に止められているからか、代わりに床にたくさんのライトが点いている。バッテリーらしき大きな黒い箱にコードが集まっていた。八神さんは背中の何かを下ろし、開いた。中から出てきたのは鮮やかな赤い色と黒の、ギター。
「纏、歌を」
気がつくと朝だった。ずっと、ただひたすら何度も何曲も、歌を歌った。
「讃美歌ばかりだったな。好きなのか?」
アコースティックが欲しくなる、と八神さんが笑う。それ以外には合唱曲と童謡しかわからないと言うと、へぇ、と笑みを深めた。
「いいもの聴かせてやるよ」
4
俺は安堵した。道で拾った歌姫の心を掴むことに成功したと思われる。最高の歌声を披露してくれた歌姫は今、夢中でビートルズを聴いている。邦楽も洋楽も知らないらしい。
「これも、聴いてみたい」
眼鏡の奥の黒く大きな瞳をきらきらさせて、纏が言う。肌は白く、黒髪は艶やかで、唇は桜色。可愛い。俺が頷くと、嬉しそうに笑んだ。白い手が、オーディオにCDをかける。
「ハロー、彰。ビートルズ聴いてんの?・・・発掘したボーカルちゃんって、中学生?」
「2人とも制服ってことは・・・一晩中ここにいたのか?」
ドアを開けて入ってきた久志と一彦。今日は土曜日。2人にはボーカルが見つかったとメールしておいた。
「とりあえず、頼まれてたアコースティックだ」
「サンキュ」
一彦からアコースティックギターを受け取る。
「纏、讃美歌でも童謡でも、何でもいいから歌って」
纏は興奮からか頬を上気させて俺を見つめた。
「これ、歌いたい・・・」
纏が指差したのはオーディオ。
「ははっ、ビートルズか。俺は今ベースあるけど、一彦のドラムがねぇから一彦ん家に移動しようぜ」
久志が楽しそうに言った。
「歌は最高に上手いけど、何にも知らない中学生。で、家出中?」
久志が妙なものを見る目で纏を見る。一彦の家の防音室で何曲も合わせて、休憩中には当たり前だが纏の話になった。
「つーか、眼鏡でわかんなかったけど、かなり美人じゃね?」
好奇心丸出しの久志。纏は居心地の悪さからか、俺に抱きついて顔を隠している。中学生のくせに幼い仕草。可愛くて、不覚にも笑みが漏れる。
「彰ばっかずるいなぁ。纏ちゃん、俺にもハグしてくれないの?」
「・・・お前は少し黙った方がいい」
呆れ顔の一彦。
「ところで彰、この子のご両親に連絡は入れたのか?」
5
綾崎さんに電話を借りて、父の携帯に電話した。
『はい』
冷たい父の声。
「・・・もしもし、纏です」
『纏!?どこにいるんだ!?』
びくっと肩を揺らす。父の感情的になった声を、僕は初めて聞いた。心配してくれていたと思うと、泣きそうになった。急いで告げる。
「少し友達の家にいました。今日はちゃんと帰ります」
『よかった。母さんも心配している』
「ごめんなさい・・・。あの・・・」
『何だ?』
優しい声だった。
「勉強の他に、やりたいことを見つけました。僕に、自由な時間をください」
2年前のことを思い出していた。あの後家に帰って、バンドのボーカルをしたいと親に伝えたのだ。父は彰の担任で、すんなり認めてくれた。今、16歳の僕は彰達と同じ高校に通いながら、バンド活動をしている。僕達はライブを沢山経験した。何度かメジャーデビューの誘いもあったけれど断って、インディーズレーベルとの契約に落ち着いている。
金曜の夜は彰と廃ビルに泊まり込んで練習をする。
「纏」
ギターを置いた彰が僕を手招きで呼んだ。
「飲み物が切れた。コンビニ付き合ってくれるか?」
コンビニの店内で流れていたのは僕達の曲だった。
「彰のギター最高だよね!」
「うん。かっこいい。今月のインディーズ系音楽雑誌の抱かれたい男ランキングも一位だったはず」
新発売のグミを見ていた僕の隣の女の子が言う。ずきりとした。彰は僕のだと、叫びたくなる。
「実はあたし、今度のライブのチケット、もう手に入れたの!」
「え~!いいな~」
彼女達が言うように、ライブの日が迫っていた。ため息を吐く。ライブでは、彰のファンが押し寄せる。かっこいい彰を見て、彰のファンになる。彰のギターに声を乗せていいのは僕だけだと思うことで、いつもなんとか切り抜けていた。彰にも誰にも言えないけれど、僕は僕の身勝手な独占欲のせいで、ライブに苦手意識を持っていた。
ビルに帰った僕の様子に彰が心配そうな顔をする。
「纏?どうした」
たまらなくなって、黙って抱きついたら、彰は抱き締め返してくれた。彰の匂いに安心する。
「彰、あきら、えっちして・・・」
彰と僕は付き合っている。でも男の僕は、誰にもそのことを言えない。ライブに来る彰のファンにも、さっきの女の子達にも。
そして僕はライブが近づくと、彼女達に彰を奪われてしまうのではないかと不安に襲われる。
6
纏をベッドに押し倒して、犯す。唇を貪るようなキスをする。少し長めの纏の黒髪を撫でながら、舌で口内を蹂躙した。
「はぁぁ、ん、ちゅ、く、ふ・・・ぁ、ひぅ・・・」
ローションでとろとろにほぐした纏のアナルに、スキンを被せたペニスを挿入する。ビルに持ち込んでから数年が経つ簡易ベッドは、ギシギシとうるさく軋んだ。
「ぁ、ん、ん、きもちぃ、あきら、ぁきら、もっとして・・・」
快楽でとろけたいやらしい表情の纏が俺にねだる。
「ぃっちゃぅ、ん、ィく、ゃ、ゃぁぁ、んん・・・っ」
びゅくん、と吐き出して、身震いする。俺もスキンの中に出した。
「ん・・・あきらは、僕の・・・」
すりすりと俺の首に頬擦りする。可愛くて、抱き締めた。纏は言動がなんだか幼い。可愛らしく幼い纏の言動について久志と一彦と話したことがある。纏の幼さは、中学生時代に同年の子や先輩の生身の他人と関わることが少なかったからではないかという結論に至った。纏はバンドに入ってから自分を「俺」と言い始めたが、情事の最中は「僕」になる。これは、俺に対してだけ。纏が可愛く甘えるのは、俺だけだ。きゅうきゅうと抱きつく纏の、唇をついばんだ。
むくりと起き上がる。隣に眠る纏の髪を撫でた。
「エッチしてって、可愛すぎるだろ・・・」
昨晩の恥ずかしそうに、しかし大胆にも騎乗位で乱れた纏を思い出して、左手で目元を覆った。堪らなくなる。
昨晩、何度したかわからなかった。自分を抑えられないことが情けない。人前では纏に触れないようにしなければ、と改めて思った。俺がしっかりしなければならない。
「ハローハロー。纏ちゃんの寝顔拝見。っておい、嘘だろ」
「おや、久しぶりに来てみれば」
久志は強姦だと驚愕し、一彦は愛の巣だったのかと納得。
「強姦?久志、あれが見えないのか」
「は?・・・!キスマーク!!」
一彦が指したのは俺の鎖骨の辺りに点在する纏がつけた鬱血の跡。懸命に吸い付いていた纏を思い出してにやけそうになる顔を、精神力で抑えた。
「・・・今日は一彦の家に集合じゃなかったか?」
最近はこのビルに2人を呼ぶこともなかった筈だった。
「趣向を変えてみたらしいんだよ。もちろん久志の提案」
「付き合ってたなら言えよな。どうりで、彰は呼び捨てで一彦は一彦さん、俺の呼び方はカナちゃん止まりなわけだ。マジでうちの紅一点独り占めかよ、彰。・・・つか、纏ちゃんとにゃんにゃん・・・」
舐めるように俺の隣で眠る纏を見る久志。
「見んな」
本当は殴りたいが、我慢した。
7
苦手なライブの2日前。練習中に、カナちゃんと2人になる。僕は気になっていたことがあった。
「カナちゃん、最近俺のこと避けてる?」
冴えない眼鏡をコンタクトに変えて、最初はむずがゆかった「俺」という一人称も定着していると思う。バンドに馴染めたと思っていたのに。
「ん?何、突然。避けるわけないじゃないか」
「何だか、この間からよくわからないけど、壁がある気がする」
見つめると、カナちゃんは困った顔をした。
「参ったな・・・」
じっと僕を見つめる。
「ちょっと、こっち来て」
いつになく真剣な表情のカナちゃんに、僕は頷いて近づいた。抱き締められる。
「好きな人に好きな奴がいたことがわかって、落ち込んでるから、少しだけ抱き締めさせて」
カナちゃんの金髪が首をくすぐる。カナちゃんは続けた。
「その子とその恋人のやらしい場面に遭遇してから、その子にうっかりエロいフィルターかけたりして妄想爆発するから、迂闊に近づけないしで・・・最悪なんだよ」
早口でよく聞き取れなかった。それでもカナちゃんが最悪な気分なのはわかって、僕は黙って抱き締められていた。
「・・・纏ちゃん、香水の匂いがする」
「?」
中学の時の僕を知る同級生は、今の僕を見て口々に高校デビューしたなぁと言う。確かにお洒落に気を使えるようになった。でも、僕は香水を楽しむまでには至っていない。
「・・・マーキングか」
苦笑するカナちゃん。呟かれた言葉の意味が、僕にはわからない。
「彰は遅れるそうだ」
一彦さんが部屋に入って来た。抱き締められている僕を見る。
「久志、何してる」
「・・・諦めの儀式」
一彦さんは妙に納得した顔で頷く。僕だけがわかっていない。
8
俺は、余裕がある振りをしている。
廃ビル街で出会ったあの日、俺は俺のための声を見つけた。奪ってでも手に入れる、と精神をたぎらせた声は後にも先にも纏の声だけだ。纏が家出ではなく用事があってあの廃ビル街にいたとしても、俺は纏を拐っていただろう。そんな異常な精神を抑えつけて発した、極めて一般的な挨拶。
思えば、あれが最初の余裕がある振りだった。
纏に告白されたのは、俺が声だけでなく纏自身に惹かれ、焦れながらも余裕だけは保っていた時だった。廃ビルの中、瞳を潤ませて俺を好きだと言う纏の、柔らかな唇を味わった。
声を手に入れ、恋人という地位を得た今も、俺は休むことなく纏の存在に心を掻き乱されている。
可愛い纏。知識豊かで頭がいい。しかし、自分には無頓着。幼く愛らしい動きと言葉で、男を引き付ける。纏宛ての手紙の中に下心を匂わせるファン、対バンした後の楽屋で纏を誘い出そうとする同業者、雑誌の撮影の際に纏に言い寄るスタイリスト。奴等の前で、纏は俺のものだと誇示したい幼稚な欲求に捕われる。
纏が好きだと言った香水を欠かさず身につけている俺は、香りを纏に残すことで密かに纏を縛り、残り香に俺を想ってくれればいいと女々しくも願っている。
「スタンバイお願いしまーす!」
俺達を迎える歓声。ライブハウスに詰まるような人の数。営業スマイルと最低限のリップサービス。オーディエンスには、音楽を。
ドラムとベース、纏の声が俺のギターに乗る。ハーモニーが生まれ、俺の音が、ただのコードではなく曲の一部に成る。昇華される。堪らない高揚感が襲う。恐らくは麻薬などと比べ物にならないだろう、人間が依存するに値する、魂を揺さぶるような快感。
そして、纏の声はライブ中にどういうわけか、甘く切ない雰囲気を孕む。俺は、俺のギターに絡まるように響くそれに最高の音を添えるため、指先と鼓膜に全身全霊をかける。
袖に帰ってきた俺達を見て、音響や照明の技術者が安堵の表情で互いを労り合う。
背後で、どよめきが聞こえた。
9
「ん・・・・・・」
真っ白な部屋。腕からのびる点滴の管。僕は病院の一室にいた。
「纏」
彰が頬を撫でる。気持ちがよくて目を細めた。
「・・・俺、どうして・・・病院?」
「倒れたんだ。医者の診断は過労とストレス。・・・気づいてやれなくてすまない」
彰が苦しそうに眉を寄せる。ついにやってしまったと僕は思う。今日のライブは変だった。歌っていると、ドラムとベース、彰の音がいつも以上に気持ちよくて、声が溢れる感覚にぞくぞくした。泣きそうになって彰を見たら、彰はかっこよくて、セックスの時みたいにセクシーだった。観客の女の子が皆、彰を見ている気がした。強く、見ないで欲しいと思った。嫉妬にまみれて、苦しくて、切なかった。
「ライブが終わって安心して、彰にぎゅってしようとして・・・」
そうだ、倒れた。
「・・・この間からおかしかったんだよな。俺には言えないことか?」
彰が僕の手にキスをする。言ったら、呆れられたりしないだろうか。言えば、少しは苦しくなくなるのだろうか。
「今日家には誰もいないから」
点滴だけで帰って良いと言われて、彰の家へ向かう。病院で気持ちを全部伝えてから、彰はほとんど無言で何か考えている。僕は別れ話になってしまうのではないかと、半分泣きながら彰に手を引かれていた。
何度か入った彰の部屋。ベッドに押し倒されて、僕は彰にキスをされた。
「纏も人のこと言えないくらいにモテてるってこと、知ってるか?」
彰が言う。首を振ると、呆れられた。
「纏がさっき言った抱かれたい男ランキングの雑誌は、インディーズなんてマイナーなもんを中心に扱っているからか知らないが、音楽雑誌のくせ抱きたいインディーズアーティストのランキングなんてえぐいものも毎号やってる。そこでいつも纏は女を差し置いてトップ3にはランクインする。どんな人間の票が集まってるのかはわからないが、色んな奴が纏にいやらしいことしたいって思ってるわけだ」
彰が顔を歪める。
「纏は倒れてしまうくらいに俺と纏じゃない誰かが繋がることを心配してる。・・・それってつまり、纏は、俺の纏への気持ちを信用してないってことか?」
彰が囁いた言葉に、すぐに反応できなかった。
10
俺は、纏を狙う奴らを煩わしくは思うものの、纏が俺じゃない他の奴の所へ行ってしまうことは想像したことがない。のろけじゃないが、纏が俺のことを好きだというのは纏と一緒にいるだけで伝わってくる。
では俺は、纏を不安にさせているのだろうか。
「・・・俺のことが信用できない?」
纏は首を振る。
「彰が浮気しそうだなんて思わないし、大切にされてると思う。・・・でも」
不安なの、と俯く。
「・・・お仕置きが必要みたいだな。俺がどれだけ纏のことを想ってるか、教えてやるよ」
纏は小さく頷いて、瞳をじわりと潤ませた。
「いっぱぃ、おしえて・・・」
桜色の唇が請う。その一連の動きに、酷く切ない気持ちになった。
ベッドに組み敷いて、服を乱した纏に優しく愛撫をする。
「ぅ、ん・・・ぁ、ぁ、はぁあ・・・っ」
蜜を垂らす纏の性器の先端に、指を擦り付ける。くちゅくちゅと音がして、纏は悶えて腰を振る。
「・・・気持ちいいか?」
頬を染めてこくりと頷いた纏の首筋に顔を埋めて、肌を吸った。乳首に舌を這わせる。
「ぁ、ん・・・っ」
ひくひくと震える纏。
不意に、わからせてやると言ったがいつもと同じことをしているだけだと気づく。纏に快楽を与えるだけでは、いつもと同じだ。
どうすれば、と考える。考えながら、纏を見つめた。可愛い纏。どうすれば、俺がどっぷりと纏にはまっていることを教えられるのだろうか。
纏が微笑んだ。
「あきら・・・だいすきなの」
いつも、「俺も」とだけ返している纏の言葉。
今更、セックスにおける愛情表現が相手を気持ち良くさせることだけでないことに気づく。
どうやら俺は、纏の愛情表現を見習う必要がある。
「ぁぁんっ、ぁ、ひぁんっ、あきらぁ・・・っ、も、らめ、またぃっちゃぅの」
枕を腰に置いた纏のアナルを穿つ。前立腺を攻め立てる。
「・・・っひ、ぁ、ぁっ、ぁぁ、ん、らめぇ、でちゃ・・・ぁ、でちゃぅ・・・ひん・・・」
纏の痙攣するペニスからとろりと白濁が溢れる。俺も欲望を注いだ。息を吐き、纏の額に唇を寄せる。
「好きだ、纏。愛してる」
俺は恐らく初めて、言葉で愛を表現した。
頬を染めて俺を見つめる纏。俺はペニスを抜こうと腰を引く。ちゅく、と淫猥な音がした。ローションで潤うアナルに優しくペニスをしゃぶられる。亀頭をきゅ、と締め付けられた。
恥じらいがちに纏がおねだりを口にする。
纏は本当に、俺を自惚れさせるのがうまい。
11
裸で、彰に抱き締められる。僕はうっとりと目を閉じた。彰は凄くいい匂いがする。ライブの後の彰は、匂いが凄く強い。セックスの最中と、今みたいに、その後も。僕はこうやって彰の匂いに包まれるのが好きだ。
初めて一彦さんの家に行った日、カナちゃんの質問攻めに、僕は彰に抱きついた。その時に彰の匂いを知った。いい匂い、と思わず口にしていた。
楽屋に入る。彰はまだ来ていなかった。机の上に、見慣れない瓶を見つけた。液体が入っている。
「これは?」
傍の一彦さんに聞いてみた。驚いた表情で僕を見て、すぐに納得した表情になる。
「彰は小分けして持ち歩いてるから、見覚えがないのか。纏、それは彰の香水だ」
瓶を手にとって見つめた。
「香水・・・彰の匂い?」
「ああ。一吹きしてみたらどうだ?」
シュッと一吹きすると、彰の匂いが広がった。彰の匂いに何の疑問も持っていなかった僕。無意識に体臭に近いものと位置付けていた。
ライブもセックスも体温が上がるから、香水の匂いが強くなるんだ。
熱い彰の体。何だか香水の香りが酷くいやらしいもののように思われた。顔が熱くなる。
「何、今更マーキングされてることに気づいた?」
カナちゃんが僕に言う。
「纏ちゃんからも匂う。彰は多分、確信犯だろ」
驚いた。
「気づかないくらい、その香りに慣らされているんだな」
一彦さんが微笑ましいことだ、と笑う。カナちゃんが、何かそれ無駄にエロくねぇか?と呆れた。
僕は、香水の瓶の英字をなぞる。
「ブルガリの、」