バスタブ
吸血鬼に白衣
1
俺は次の患者を確認した。インフルエンザのワクチン注射を受けに来た7歳の少年。名前は櫛田心(くしだこころ)。体温は35度9分。
「次、櫛田さん呼んでください」
「はい、次、櫛田さんどうぞ」
ナースが扉を開けて患者を呼ぶ。俺、渋谷霧人(しぶやきりと)は内科の開業医だ。
「渋谷先生、先日はお世話になりました」
入室したのはふくよかな女性。櫛田と考えて、最近診察した男を思い出す。
「ああ、櫛田さんの奥さん。今日は息子さんですか」
「そうなんです。お願いします先生」
自分の後ろに隠れていた少年を奥さんが強い力で引きずり出す。少し涙目になった少年がこちらを見た。
「こんにちは、心君」
少年が俺を見つめた。可愛い。どくどくと血が騒いだ。喉がほてり、渇く感覚。
「こんにちは・・・」
小さく、か細い声。吸い込まれそうな、黒く潤む大きな瞳。声が掠れそうになったが、平常心で微笑む。
「注射、我慢できるね」
少年はこくりと頷いた。
「あら」
奥さんが声をあげる。
「さっきまであんなに泣いてたのに」
まだ奥さんにしがみついているが、少年の愛くるしい双眸はじっと俺を見つめていた。
2
「・・・ぃたくしなぃで・・・」
少年が勇気を振り絞っているのをひしひしと感じる。なるべく安心させるように微笑んで、肘の裏を撫でた。ぷつっと針を白い肌に刺す。
「んっ」
少年の眉が寄る。悩ましいと思ってしまって苦笑する。こんな子どもを欲望の対象にしてはと自分をたしなめた。親指を入れてワクチンを注ぐ。
ワクチンを打ってから、少年は俺の元を訪れるようになった。少年が通っていた小児科よりもこちらの方が、奥さんがパート勤めをしている会社に近いらしい。ただ、こちらの方が、いつも混んでいるのだが。
「今日はどうしたんだい?」
心は病院に慣れた。もう母親も診察室についてこない。
「お腹が、痛くて、僕・・・」
心が俺を見つめる。腹痛。触診に喜ぶ自分に気づいて、少し頭痛がした。心には、参る。気を取り直してカルテを見た。
「少し熱がある。腹痛はただの風邪だろう。聴診機をあてようか」
前を開ける心。白い胸と腹。
「ひ、ぁ・・・」
冷たい聴診機にぴくっと震える。のけ反った喉元に一瞬、目を奪われた。
噛りついて血を・・・。
いけない。ぐっと抑えて、尖りそうになった八重歯を制す。
3
「一週間分の薬を処方しておこう。一週間経ってもまだ熱と腹痛が残っている時は、また来なさい」
心が帰った後、ナースが話しかけて来た。
「渋谷先生、心君のこと苦手なんですか?」
「・・・なぜ?」
俺が聞くと、ナースは困惑したように言う。
「触診したくなさそうだったから。心君、少し悲しそうでしたよ?」
他人に違和感を持たせる程あからさまだったとは。反省した。
俺は間違いなく、心に特別な感情を持っていた。触ったら、鼓動を、血脈を感じてしまう。好きな人間の、生々しい血脈を感じることは、回避すべき事態でしかない。
俺は、吸血鬼だ。
吸血鬼は人間と交わり、血を薄めてきた。今では限りなく人間に近い生き物で、日光はもちろん、にんにくや十字架も、吸血鬼に何の害も及ぼさない。諸器官の働きも人間と変わらないため、医療も受けられる。
ただ、吸血衝動だけは遺伝子に残り続けている。性的に興奮を感じた時、吸血鬼は相手の血を欲する。ホラー映画のように噛みついただけで相手を吸血鬼に変えるようなことはないものの、血を欲する。
人間に性的興奮を感じたのはいつ以来だろうか。ため息を吐く。仕事がやり難いことこの上ない。
「さて・・・今日はどうしたんだい?」
診察椅子に座るのは、あの愛らしい少年。心の最後の診察からはまだ一ヶ月も経っていなかった。
4
「熱が酷くて、喉も痛いみたいなんです」
母親が説明する。心は俯いていた。聴診機をあてる。肺胞呼吸音の減弱と、気管支呼吸音および水泡音を確認した。
「肺炎ですね。すぐに入院してください」
心の母親はすぐに入院手続きを済ませた。他に入院している患者は平均よりも多く、もうすぐ退院することになっている元気な少女と二人の相部屋になる。
「はじめまして。あたし、小春っていうの。よろしくね」
小春の快活さに気圧された様子で、心が差し出された手を握り返した。
「櫛田心君。肺炎で喉を痛めてるから、話せないの。少しの間だけど、よろしくね」
ナースが小春に心を紹介するのを聞きながら、カルテを見る。喉の痛みは一週間前からあり、発熱を繰り返していたらしい。心は頑なに大丈夫だと言い張ったと母親は言う。
心が入院して2日目の昼。ナースが話かけて来た。
「先生、櫛田君、食欲もないし、小春ちゃんいわくたまに泣いてるみたいなんです」
「泣いて・・・?」
食欲がないのは喉の痛みからだとして、泣いているとはどういうことだろう。心のところには母親が連日訪ねてくるし、ホームシックとは考え難い。
「理由を聞いても、筆談もしてくれなくて。先生には、どことなく懐いている気がするんです、私。だから」
「・・・わかった。聞いておくよ」
言いながら、心を見るのが億劫だった。変な気分になるのを避けるため、なるべく長時間の接触は避けて、平常心を保つよう努めている。そんな中で見る心からは、ナースが言うような気持ちを俺に抱いている様子は見られない。寧ろ、何となく嫌われているような気もしている。
5
今日は小春の退院の日だ。小春の両親がせっせと着替えや日用品をまとめていく。
「先生、ありがとうございました。小春、先生にしっかり挨拶してきなさいね。では、失礼します」
にこやかに小春を残して退室する。小春は少し頬を染めて俺を見ていた。
「霧人先生、ちょっとしゃがんで」
言われるままにしゃがむと、頬に柔らかいものが触れた。
「先生、大好き、ありがとう」
ぺこっと頭を下げて、ぱたぱたと出て行く。ナースがくすくすと笑う。
「さすがは渋谷先生、モテますね~」
幼稚園児のくせにませていると呆然とした俺は、心の視線に気づかなかった。
定休日の夕方の回診。ナースは書類の整理をしながら電話やナースコールに対応できるように待機している。俺は一人で入院患者を簡単に回診する。最後は先程一人部屋になった心。
「発熱の回数も大分減ったな・・・喉の調子は?まだ筆談しないと辛い?」
俯いていた心が顔を上げた。瞳が潤んでいてぎょっとする。熱はない筈だが。
「心君・・・?」
「しぶやせんせ・・・」
掠れひとつない澄んだ心の声。喉は回復したらしい。声から甘い匂いを感じた俺は、ぞくりとした。
「せんせ、は・・・ぼくのこと、きらい・・・?」
悩ましげに寄せられた心の眉。俺の八重歯が尖る。
6
「どうして?」
聞きながらも、おおよその予想はついている。純情少年じゃあるまいし、俺は、鈍くない。心が俺を好きなのは間違いなさそうだ。
「せんせ、ぼくを、みないし、さわるのも、ためらぅ、から・・・」
きゅっと唇を噛んで、瞳を伏せる。黒く長い睫毛は震えていた。堪らない。
「ぁ・・・っ」
白い首筋に噛みつく。甘い血が流れ出るのを舌でなぞり、吸う。
「ひぁ、せんせ、せんせ・・・はぅ、ぁ、ん、ん・・・」
心が俺の白衣をぎゅっと掴んだ。ひくひくと震える。人間は血を吸われると気持ち良くなるらしいが、こんなに痙攣して、心は最高に感度がいい。俺は血を吸いながらほくそ笑んだ。じゅるじゅると小さな穴から血を啜る。
「いぁぁあっ、せんせ・・・らめぇ、らめ・・・ん、は、っひにゃぁぁあっ」
心が一瞬息を止めたと思えば、ふにゃりと俺にもたれた。ぴくぴくしている。まさかと思ってベッドに寝そべらせた。オーガズムにイってしまったらしく、はくはくと息をしている。
「血を吸っただけでイくなんてな・・・」
心は潤んだ瞳で俺を見る。
「せんせ、からだ・・・へん・・・あちゅぃの・・・」
その上、吸血鬼の唾液の催淫効果の回りも早いときた。
「・・・治してあげなくてはね」
7
心の服を脱がせる。裸の心は柔らかく、綺麗だった。少し汗ばんで、白い肌を桜色に染めている。
「ふぇ・・・?」
真っ白な内股に歯を立てる。鮮血が流れた。
「ひきゃあんっ・・・せんせぇ、ぃたぃ、ん、んくっ、ふ、すっちゃ・・・っ」
「・・・吸うと、何かな?」
気持ちよくなる?と囁くと心は頬を染めてうっとりした。自然に口角が上がる。心の性器は当たり前だが小さく、皮を被っている。それでもしっかり芯を持ち天を向いていた。心の膝を抱えてしゃぶりつく。心が、いやいやをするように弱々しく首を振るが、そんな様子も、瞳を潤ませた淫蕩な表情では何の拒絶にもならない。
「ひぁぁぁあっ」
心の腰がびくっびくっと痙攣する。涙が流れた。わかっていたが、幼い心はまだ射精できない。
「空イきだからな・・・辛いか?」
意外にも心は首を振った。
「どきどき、する・・・せんせ、が、ちかくて、ぅれし・・・」
ふにゃっと、本当に嬉しそうに笑む。俺は魅了され、同時に酷く欲情した。
「せ、んせ・・・?」
心のお尻を持ち上げ、アナルの傍の柔らかい肉に少し歯を刺した。心が嬌声をあげ、一瞬で固く閉じていた蕾が柔らかく開く。指で左右に開くと、中から女のように透明な蜜がとろりと流れ出た。桃色の腸壁は淫らにうごめいている。
8
アナル近くに唾液を打ったため、心のアナルはとろとろに解れた。本来なら感じる筈の痛みも受けず、気持ち良さげに喘ぐ。心は快感に従順で、恥じらいを持ちながらも、貪欲だった。ぎしぎしとベッドが軋む。
「せんせ、ひにゃぁぁあっ、ぃ、いっ、きもち、の・・・あ、ぁ、ぁ、あっ・・・ひく、ン、おちんち、ぐちゅぐちゅ、きもち・・・ひ、ぅにゃぁん・・・っ」
四つん這いになって、足を大きく開きお尻を上げて、心は腰を振る。
「・・・イかせてあげよう」
心のアナルから流れ出る淫液を掌にして、睾丸から亀頭までこねくり回す。激しく腰を打ち込んだ。それはもう、とろとろのじゅくじゅく。
「ひゃ・・・んーっ!・・・はぁ、は、ぅ、にゅ・・・」
きゅぅと締めつけられ、俺は心の中に欲望を吐き出した。
「は・・・っ」
「・・・ひ、っぁん・・・」
性器を抜くと、こぽっと白濁が流れて心の性器を伝う。後始末のために仰向けにさせた。
「・・・しぶや先生」
心が切なげな瞳で俺を見た。
「せんせ、すき・・・ぼく、こはるちゃん、のすきよりも、いっぱい・・・せんせ、が、すき・・・」
小春と比べてもなと苦笑する。ぽろぽろと泣く心。俺は心にキスをした。
「好きだ、心・・・」
心は目をぱちぱちさせた後、頬をピンク色にして言った。
「じゃあ・・・せんせ、は、ぼくの・・・?ほっぺも、ぜんぶ?」
意味が掴めずに訝しんだ俺の白衣をぎゅっと引いて、心が少し伸び上がる。頬に、柔らかい感触がした。
「だれにも、されないで・・・」
合点がいく。心は嫉妬深いのかもしれない。
「・・・ああ、全部、心のものだ。心も全部、俺のものだろう?」
反対に聞けば、心は頷く。
「ぜんぶ、せんせいの」
血も魂も全て、俺のもの。