バスタブ
夏の夜
1
転び、アスファルトに擦りつけたせいで、柔らかな白い掌の皮膚が細かく抉れて裂けていた。赤い血が流れているのをじっと見ている子に、母親が慌てて駆け寄り怪我の様子を確認する。父親が差し出したペットボトルのキャップを外し、ミネラルウォーターで傷口を洗い流す。
「この子、痛くないのかしら」
涙ひとつ見せない我が子に、心配した母親が言った。
「このあいだ、頭を打った時も泣かなかったのよ。痛がりもしないし・・・」
母親の推測は正しかった。三歳の蘆屋匡彦(あしやまさひこ)は掌に痛みを感じていなかった。彼は常に、この怪我よりはるかに酷い痛みを全身に感じていたからだ。
五歳になり、匡彦は言葉を獲得したが、痛覚に関係する言葉の認識を他者と共有できずにいた。転んで泣いている友達も、自分を殴ったせいで友達が怒られているのも、匡彦には理解できなかった。そして、自分を苛んでいるものが痛みという言葉で表現できるなどとは、つゆほどにも思っていなかった。
生まれてからずっとだ。何かが匡彦に纏わりついて、痛めつけている。外傷はない上に、匡彦は慣れてしまっていた。大人達はそれぞれに、全く見当違いな見立てでもって、匡彦を不健康で愚鈍、表情のない不気味な子どもと結論づけている。匡彦はそれに甘んじていた。自分は何故人より劣るのか、考えたこともなかった。痛みは匡彦にとって日常だった。そして、同級生達に馴染めずに孤独を感じている。匡彦は七歳になっていた。
一人の男が下校中の匡彦に声を掛けた。田舎道の脇に高級車が停まり、この男がその車から出てくるのを匡彦は見ていた。まさか自分に話しかけてくるとは思っていなかったが。
男が着ている服を見て、先日、父が母の葬式で着ていた服と似ていると匡彦は思った。お車へご案内致します、と男は言った。
「貴方のお祖父様がお待ちですよ」
自分に祖父がいるなどとは聞いたことがなかった。それに、知らない人に付いて行くつもりはない。無視して帰ろうとした匡彦の手に、男は何かを握らせた。
「いかがですか?」
男がしゃがみ、立ち尽くす匡彦の表情をじっと見つめる。
「・・・これ、は・・・?」
匡彦は呆然としていた。手の中のものを見る。皺になった白く薄い小さな紙。墨で何か文字が書かれている。
「お祖父様、倉橋澡璞(くらはしそうはく)様がお待ちです。澡璞様は貴方のことを大変心配しておられます。誰も、貴方を理解できない、助けられないだろうと」
「僕を、助けて、くれる・・・?」
声が掠れる。
「ええ、澡璞様なら可能です。・・・貴方は今まさに、実感しておいでだ」
お父様にはこちらからご連絡差し上げますので、と男が言った。
2
「加茂さんばかり、ずるいです」
倉橋尊(みこと)は、玄関でひとり靴を履く加茂璞詠(かもはくえい)に言った。璞詠とは雅号だ。尊はこの男の本名を知らない。興味もなかった。
「何や、弟クン起きてはったん」
もうちっこい子は寝とる時間やよ、とスニーカーの紐を結びながら加茂が言う。九歳の尊には、八つ歳上の兄がいる。
「ほんで?何がずるいん?」
靴を履き終えた加茂が尊を振り返った。狐のように釣り上がった細い眼が、尊を見る。広い玄関に、しんと冷たい沈黙が響く。
「・・・加茂さんは、お兄ちゃんとずっと一緒にいます」
「そやね。学校も一緒やし、澡璞先生に揮毫習とるんも一緒やから、仕方ないんとちがう?」
加茂は兄の同級生であり、祖父の書道教室の門下生の一人だ。倉橋澡璞は弟子が一人前になったと認めた時に雅号を与えたが、二人のどちらが先に最年少で雅号を手にするか競っていた。兄の書が一等好きだが、加茂の書の素晴らしさも尊は知っている。
「夜まで・・・お兄ちゃんと何をしているんですか?」
高校生の兄は、最近帰りが遅い。父と母に聞いたが、受験勉強のために塾へ行っているわけでもない。夜中に加茂に送られて屋敷に帰ってくる。尊は加茂を睨んだ。
「弟クンには教えられへん。そないおとろしい顔せんといて」
匡彦の面倒見る俺の気も知らんと、と加茂は呟く。
「ほなな」
尊に背を向け、加茂は倉橋の屋敷を出た。
朝、尊は布団から飛び起きて、兄の部屋へ向かう。加茂に夜遅くまで連れ回されるようになった頃から、以前は朝に強かった兄が自分でひとりでは起きられなくなっていた。
「お兄ちゃん、起きて」
ゆすゆすと布団を揺さぶる。兄は深い眠りの中にいる。端正な寝顔だが、長い睫毛の下には酷い隈がある。
「おにいちゃん」
尊は心配で堪らない。
「・・・尊?」
薄っすらと兄が瞼を上げる。尊を見て、掛け布団を少し持ち上げた。尊は迷わず潜り込む。くすくすと兄が笑う。
「まだ早いんだろう?」
問う兄の瞼は、既に閉じられている。尊は痩身の兄に擦り寄った。肌を寄せ、匂いを吸い込む。兄の少し低い体温に触れ、その確かな鼓動をじっと聞いた。
3
兄が、幼少の頃酷く不健康だったという話を尊は父から聞いていた。祖父が病を治してくれたお陰で今の兄がある、と。
そして、尊がここにいるのもまた、祖父のお陰だ。
倉橋澡璞と愛人の間に生まれたのが兄の母だ。兄の母が亡くなった時、澡璞は兄、つまり自らの孫の存在を知ったという。澡璞は父と兄を倉橋の屋敷に迎え、父に自分の末の娘を宛がった。父が新しい妻との間にもうけたのが、尊だ。
匡彦と尊は腹違いの兄弟である。
小学校から帰った尊が母屋の祖父の部屋を訪ねると、祖父はそこにいなかった。
「澡璞さんでしたら、離れにいらっしゃいますよ」
祖母が微笑む。どこか憂いのある表情だった。
「おばあさま、ありがとうございます」
尊は屋敷の敷地内にある離れへ向かった。母屋を出て庭に入る。離れは祖父のアトリエだ。書道教室も兼ねている。祖父の言いつけで尊は筆を持たせてもらえないが、兄を見るために何度か入ったことがあった。飛石を進めば辿り着く。迷うことはない。
声が聞こえた。
「確かにただならぬ雰囲気ではありましたが、本当に先生が仰るような・・・」
「・・・いずれわかることだ。あの石谷が大臣になったのも、」
曲がり角で、声の主である二人の背広の男と出会す。尊に気づいた二人は口を閉ざした。尊は頭を下げ、幅の広い飛石の脇に寄る。道を譲った。尊の祖父の元には、門下生の他に客人も訪れる。客の多くは、書道の協会や連盟、展示会の関係者、画廊のバイヤーといった、芸術家倉田澡璞に用がある人間だが、この二人のような客も訪れた。彼らは、美術品としての澡璞の書には興味がない。
枝ぶりの美しい雄壮な松の奥に、離れが見えた。御堂のような外観だが、仏像を安置する建物ではない。内部は書院造りになっており、広間である主殿を中心に、襖で間仕切りされたいくつかの部屋がある。尊が入ることを許されているのは、教室としても使われている主殿だけだ。
引き戸を静かに開ける。祖父は広い主殿の中心に、短冊のような紙を前にして座っていた。
靴を脱いであがり、尊は静かに畳の上に正座する。硯に墨を磨る音が響いていた。ゆっくりとした、祖父の手の動き。
「・・・話してみなさい」
穏やかだが、威圧感がある。
尊は緊張した。祖父は尊の言葉遣いに厳しい。祖父いわく、汚れた言葉は魂を穢す。また、尊の魂は穢れやすいため、過分に気をつけなければならないのだとも祖父は言った。言いつけを守り、尊は普段から可能な限り丁寧に話す。おじいさま、と尊は言った。
「お兄ちゃんを助けてください」
澡璞は静かに笑う。
「あれもそろそろ限界かも知れないと思っていたところだ。よかろう、そうだな・・・次の魂祭の日がいい。その時は、尊の手伝いが必要になるが」
果たしてできるだろうかね、と手を止め、尊を見やる。
手伝いとは何だろう。
検討もつかぬまま、尊は頷いた。
4
匡彦が白い薄紙に筆先を降ろした。
緊張と弛緩を繰り返し、黒い染みが文字の姿を成していく。汁が生き物のように紙を侵し拡がる。雅やかな像が連なり、沈鬱な紋様が群る。彼らの呼気は、幽玄な墨の香がする。乾き、艶を失うまで、この生き物たちは静かに呼吸し、その短い生を全うする。加茂には、そう見えた。息を詰めて凝視する。見る度に感動している。何度も見てきたというのに、まるで飽きることがない。
文鎮代わりの石を一箇所に固め、筆と硯を仕舞った。匡彦の雅号である董璞(とうはく)の印が捺された大きな紙をドラム缶に入れ、火をつけたマッチを放る。柔らかな紙は瞬く間に燃えていく。燃えきったのを確認し、バケツの水をかけた。水は、雨水だ。ドラム缶の側にはいくつものバケツが置いてある。加茂は空になったバケツを無造作に元に戻した。
「よっしゃ、これでしまいや。帰ろか」
匡彦を見る。まだぐったりと床に横になっていた。初めて手伝った日、書き終えた匡彦がぐらりと姿勢を崩し倒れたときには狼狽した。救急車を呼ぼうとした加茂に、近頃は自分一人で自宅に帰るのが困難になってきたのだと匡彦は虫の息で言った。以来、加茂は匡彦のこの儀式を見守り、帰宅を手伝っている。
「俺、こない大きい人おんぶできひんよ」
頬を叩いた。匡彦が瞼を上げる。手を引き、起こしてやった。
「・・・すまない、ありがとう」
疲れ切った青白い顔で、匡彦は言う。建設途中で工事が中断したまま数年が経っているこの廃ビルの屋上で、夜毎、匡彦は揮毫する。
倉橋の血筋は祈祷師だ。匡彦は血を色濃く受け継いでいる。幼い頃、澡璞に手を引かれやって来た匡彦の様子を、加茂は今でもありありと思い出すことができる。匡彦の小さな身体は、生きているのが不思議なほどの魔を容れていた。
体内に保てる魔の量は、祈祷師の能力を表すと言われている。加茂自身も魔を寄せやすく、体内に留めてしまうため、幼い頃から倉橋澡璞に預けられていた。澡璞は書道による魔力の制御を確立し、一般の書道教室を営む傍ら、教室を分けて魔力のある子女を指導していた。そうして、魔を集めていた。己の魔と弟子の魔を数年分かき集め、漸く人を一人呪い殺せる魔になるところだが、匡彦の魔は量も質も別格だった。
澡璞が呪術行為で私腹を肥やし、一部から名声を得ていることを匡彦は知っていた。しかし、それが自分の魔を流用してのことだと気付いたのは一年前のことだ。
以来、匡彦は倉橋澡璞が他者に差した己の魔を、全てではないものの可能な限りで自分に戻している。それと同時に、今までは知らず澡璞に引き渡していた魔を身体に留め続けていた。
「せんせは、大量の魔をどこに持ってはるんやろか」
加茂は匡彦に肩を貸す。匡彦は首を振った。本人に聞くことなどできない。調べてみてはいるが、一向にわからなかった。
「匡彦が供給断ってから大体一年ぐらい経つやろ?せんせもそろそろ使える魔がなくなってきたりしそうなもんやけどなぁ」
こないだ依頼あったゆう噂の誰やったか政治家のオッサンも怪我くらいで収まっとったらええね、と加茂が言う。
5
蝉が鳴いている。茹だるような暑さだった。匡彦は離れの引き戸を開ける。墓参りを済ませたところで、夕刻離れに来るようにと祖父に言われていた。何度も呪術の邪魔をしてきたが、呼びつけられることはなかった。今さらながら灸を据えられるのか、はたまた、ようやく魔が枯渇したのだろうかと匡彦は思う。
主殿には誰もいなかった。匡彦は畳を過ぎ、襖を開ける。冷房のない部屋の筈だが、空気はひんやりとしていた。板張りの、殺風景な部屋だ。仏はないが仏間と呼んでいる。窓もなく、部屋の上部にいくつかの通気口がある。
祖父は、広い部屋の真ん中に座っていた。祖父の横には白無垢姿の少女が正座している。大きな綿帽子が顔の殆どを覆い、紅を差した唇と白い顎だけが見える。
そこに座りなさい、と祖父が言う。匡彦は従った。祖父と少女に向かい合うように座る。
少女がゆるりと立ちあがり、着物を脱ぎ始めた。祖父が手を貸している。襦袢も足袋も取り払った。少女だと思っていたが、少年だ。無毛のペニスが見える。小さなペニスの根本には、白い紐が結んである。少年は、奇妙な、綿帽子だけの姿になった。
顔は見えないが、背格好も色の白さも、弟ではないだろうか。祖父が見知らぬ子どもを裸に剥くとも思えない。
「尊、」
口にした瞬間、金縛りにあった。身体が動かない。部屋を照らしていた蝋燭が、三本を残して全て消えた。
どこからか、太鼓の音がする。
「術が成功したようだ。・・・御先祖様方がおいでになるよ」
祖父は立ち尽くす少年に言った。匡彦をちらりと見るが、何も言わずに部屋から出て行ってしまう。尊に声をかけたいが、指先ひとつ動かせない。
ぬ、と壁を抜け異形のもの達が部屋に現れた。ぼんやりと人の形をしている。陰のように全身が黒い。頭部はあるが、のっぺらぼうのように顔がない。それぞれが二メートルもあろうかという体躯だ。二人を囲むように、八体が胡座をかいて座した。
一体の異形が歩み寄り、少年に触れた。少年の尻の間から垂れる、白い組紐を引いた。少年が甘やかな声をあげる。匡彦には、尊の声にしか聞こえなかった。ずるりと、紐に繋がれたものが、少年のアナルから出てきた。床を打ち、転がったのは、男性器を模した木の張子だ。凡そ人間の大きさとは言い難い。
匡彦は八体全ての異形のモノの股間に、張子とほぼ同じ大きさの怒張があるのを見る。
6
眼前では、匡彦が予想した通りのことが起こっていた。異形が代わる代わる少年を犯していく。匡彦は顔を背けることもできず、見せられていた。
「ん、ん、ぁ、は、あん、ぁっ・・・んぅ、」
少年を組敷く六体目の異形が、動きを止める。少年のアナルに、何かを注ぎ込むように腰を回した。
「ひ、ふぁ・・・」
小さな形のよい唇の端から一筋、涎が垂れる。ずるる、と六体目の異形はぬらりと濡れ光る怒張を少年から抜き、離れた。透明な汁が糸を引く。ぽた、と床に液が落ちた。七体目の異形が床に転がる少年の身体を抱き起こす。胡座をかき、少年の膝裏に逞しい腕を入れた。後ろから抱く体制で、その怒張を挿す。ずっぽりと受け入れた少年のアナルを激しく穿った。
「あっ、あっ、ぁ、・・・っ!」
白かった小さなペニスが、ほんのりと桃色を帯びている。最初は皮を被っていたが幼いながらも剥けていたようで、今では果実のようにぷるりとした亀頭が見えていた。ふくふくと膨らみ揺れるそれを、匡彦は見せつけられていると感じた。七体の異形はそれぞれが異なる体位で、匡彦を煽るように少年を抱く。
「んふ、ぅ・・・ちゅ、ちゅ」
異形は少年に、自らの太い指を舐めさせた。性器を舐めさせるように。匡彦は、尊で妄想してしまう。自分のペニスを舐める愛らしい弟。くそ、と心中で悪態をつく。ずくずくと、腰が熱く重たい。匡彦のペニスは繰り広げられる痴態にあてられ、下着を湿らせるほど勃起していた。
「ぁあ!ひ・・・」
深く打ち込んで、七体目の異形も少年の中で果てたようだった。
八体目の異形は、正常位で少年を抱いた。匡彦は異形のものの大きな背中と、少年の白い尻と腰、そして異形の怒張とそれを受け入れるアナルを見せつけられていた。少年を太ももごと抱き締め、異形は少し上げさせた尻に腰を押しつける。ちゅぐっちゅぐっと、怒張を僅かに引きあげ、小刻みに奥を突く動きで少年をいじめていた。
「ぁ、ぁ、あ、あ、んふ、ん」
少年は気持ちのいいところにあてようとしているのか、小さな尻を僅かに揺らしている。その淫靡な仕草に気づき、匡彦は目眩すら覚えた。早く終わって欲しかった。自らのペニスを慰め、射精がしたい。頭がおかしくなりそうだ。今なら少しの衣擦れで吐精できる自信があった。
「ひ、ひぃん、あぁん・・・っ」
ばちゅ、ばちゅっ、と異形の腰の動きが大きくなる。ぬらぬらと油を纏っているような太い怒張、その裏筋がまざまざと見える。柔らかなアナルが、あれを擦りあげている。
「あ、ぁ、ん、ぁ、ぁ、ァ」
ぱんぱんと、肉を打つ音。動きの大きさはそのままに、抜き挿しが速くなる。この異形もまた、果てようとしているのだ。
「きゃぁ、ぁ・・・」
ぐ、と巨体に伸し掛かられ、少年は何かを注ぎこまれる。八度目となるそれもまた、液体のようで液体ではないものだった。少年には頭頂から爪先まで、何かが全身を巡るような感覚があった。
異形が怒張を抜き取ると、アナルは咥えるものを失い、寂しそうにひくついた。
7
八体目の異形が少年の手を引き、上体を起き上がらせた。ぺたりと足を折り、正座ともつかない形で少年は床に座る。小さいながら勃起したペニスの下に、異形は白い盃を置いた。大きな指が器用に、ペニスの根本を縛り上げている紐を解く。
「ひ、ぁ・・・っ」
びくっびくっと腰を震わせて、少年は射精した。くたりと力なく床に倒れようとした身体を、少年の後ろに控えていた異形が支えた。
『迎えよう、董璞、我らが息子。これを飲みなさい』
異形のものの声だろうか、匡彦の耳に確かに聞こえた。雑音を集めたような、不思議な音だった。精液を受けた盃を手に、八体目の異形は匡彦の前に正座する。また別の異形が匡彦の真横に跪き、頭を掴み顎を押さえた。盃を満たす白濁を、匡彦の口に流し込む。
人肌のぬるさ、匂いも味も無かった。
身体が火照り、腰の辺りを支配していた熱と重さが全身に拡がるような感覚がある。金縛りが解けていた。異形が震える少年を後ろから抱き込み、犯せと言わんばかりに膝裏を取っている。綿帽子のせいで少年の表情は伺えない。
尊ではないと自分自身に嘯いて、匡彦はズボンの前立を開けた。
少年のピンクのアナルにペニスをつけた。そこに少し擦りつけるだけでも出してしまいそうだった。
「っ、は・・・」
ゆっくりと挿す。肉は柔らかく潤い、匡彦を包み込んだ。全身に拡がったと思われた熱が、再び腰に集中する。ぞくぞくした。匡彦にとって、これは初めての他者との性的行為でもある。みっちりと穴を埋めた勃起に、少年が甘い吐息を漏らす。異形のものを相手にし疲れているのは明らかだったが、我慢や気遣いなどできなかった。いつの間にか異形のもの達は消えている。少年を床に組み敷いて、匡彦は腰を振った。
「ぁ、ぁ、に、ちゃッ・・・ぉに、ちゃ・・・す、き・・・しゅ、きぃ」
甘い声で少年が鳴く。
「く、ぁ・・・っ!」
射精の瞬間何かに、ぐ、と腰を押された気がした。匡彦は塞き止められていた欲望を蠢く胎内に注ぎ込む。ひくんひくんと痙攣する少年。小さなペニスはとろりと精液を漏らし、濡れていた。ずる、と性器を引き抜く。
「はぁ、は・・・」
どくどくと鼓動が煩い。息を整える。帽子の下で少年、否、尊はどんな顔をしているのだろう。匡彦は綿帽子を取った。
「・・・ん、おにぃ、ちゃ」
とろりと潤む瞳が匡彦を見る。よかった、と嬉しそうに微笑んだ。
「くま、なくなってる」
ぎゅうぎゅうと抱きついてくる。小さな身体を抱きしめ返して、匡彦も床に身体を預けた。心地よい疲労感がある。
「ぼくをばいかいにして、お兄ちゃんはご先祖さまとつながったんだよ。だからもう、痛いのも苦しいのもぜんぶ、ご先祖さまがもっててくれるの」
嬉しい?と無垢な瞳が匡彦を見た。嬉しいよ、と匡彦は行為の意味を知らない尊の髪を撫でる。この一度きりだからと、罪悪感に蓋をした。
「・・・ありがとう、尊」
8
ゆすゆすと尊は眠る兄を揺さぶる。朝ではない。兄は朝、尊よりも早く起き、離れで書道に励んでから高校へ行く。
「ぉに、ちゃ・・・」
溢れる大粒の涙を見て、匡彦は自らの布団に尊を迎え入れた。兄が僅かに見せた苦悩の表情に、ごめんなさいと尊は震える。
「でも、でも・・・」
パジャマ越しにもじもじと、尊は膨らんだペニスを匡彦の横腹に押しつける。
「ぁ、ぁ、ん・・・ぉにぃちゃ、みことのおしりに、ぉちんち、ぐりぐりして・・・」
あの夜以来、尊の身体は夜になると火照るようになった。自分で弄ることで一定の快感は得られるものの、イけない。初めての性交の快楽が大きすぎて、オナニーなどではオーガズムに達せなかった。眠れずに、夜毎匡彦の部屋を訪れている。
「・・・尊は悪くないよ」
兄の手が尊のパジャマのボタンに触れた。服を脱がせてもらっているとき、尊は期待と、兄を好きだと思う気持ちでいっぱいになる。兄の右手が尊のペニスを包んだ。それだけでも、自分で触るよりもずっと気持ちがいい。尊は腰をひくつかせる。兄の左手が尻を撫で、アナルをなぞった。
「自分で乳首を触って」
こくりと頷く。兄が舐めてくれる日もあるのだが今日はそうではないらしく、尊は少し残念に思う。くりくりと既に固くなっている乳首を弄った。
「ひぁ、ぅ・・・」
「かわいいね、尊・・・」
ちゅ、と匡彦が瞼にキスをする。今日の匡彦は、自分で触る尊が見たい気分だっただけなのだが、そんなことを尊が知る由もない。匡彦は布団の脇に置いた箱からローションを取り、指でアナルに塗り込んだ。
「ぁぁ、ぁん」
異物感にぶるりと震える。匡彦は、すぐに指を受け入れる柔らかなアナルを心配した。元は受け入れるための器官ではないのに、この一週間は毎晩ペニスを受け入れている。明日もこうなるなら、と匡彦は諦めにも似た気持ちで考える。
「明日は、挿れるの我慢しようね。尊のおちんちん、いっぱい舐めてあげるから」
予め釘を刺すことが大切だ。フェラチオされるのも好きな尊は、素直に聞いている。想像したらしく、尊のペニスが匡彦の手の中でぴくぴくした。可愛くて、口元が緩む。匡彦のペニスも硬くなっていた。
「挿れるよ」
尊はくるりと匡彦に背を向け、お尻を差し出した。匡彦の勃起に、すべすべのお尻を擦りつける。
「っ、いやらしいな・・・」
ローションでほぐしたアナルに、ペニスを挿した。ちゅぐぅ、と中に埋まる。
「きゃぁ、あ」
尊は歓喜の声を上げた。
「ふ、ぅ、んく、ん、ぁ、ぁ・・・ぉちんち、きもち、ぃ・・・はゅ、ぅ・・・」
匡彦はローションを手に取り、尊のペニスも揉む。
「ひぁぁ、ぁ、ぉに、ちゃ・・・っ、らめ、らめぇ・・・でちゃっ」
ぐりぐりとアナルの中でペニスが前立腺を攻めた。匡彦は尊のいいところを知っている。
「僕がイくまで、何回でも出せばいい」
囁かれ、尊は呆気なく射精した。
「はぁ、ぅ・・・ふ、ひ、ぁ、ぁ、ぁぁっ、ゃ、」
匡彦はまだ吐精している尊のペニスを擦り、容赦なくアナルを穿つ。
「また、ぃっちゃ、ぃっちゃ、ぅ、おにぃちゃ・・・ぁっ、ぁ・・・ふ、にゃぁぁ・・・っ」
腰を震わせ、尊は再び射精した。猫みたいだ、と匡彦が呟く。
「ひ、ひ・・・ぁ・・・」
匡彦はうなじに鼻を寄せ、尊の肌の匂いを吸い込んだ。肩、首、そして耳を舐め、しゃぶる。
「ふぅん、ん、ぁぅ・・・に、ちゃ、ぉにぃちゃん、しゅき・・・」
尊を抱きしめた。匡彦は数回のストロークの後、尊の中で射精する。尊もまた軽く絶頂し、兄の腕の中でくたりと弛緩した。
「・・・は、ぅ・・・ぉにぃ、ちゃ」
ベタつき、色んな液体で濡れている。うとうととする愛らしい顔を眺めながら、風呂に入れなければと考えて時計を見る。くまがすっかりなくなる日は来ないのかも知れないと、匡彦は思った。