バスタブ
奇術師のユーストマ
1
何もないステージの上。白いTシャツに黒いジャケット、ジーンズを身に付けたラフな格好の男が一人、俯いて立っていた。大勢の観客は皆静かに男を見ている。
時計の針が20時を指した。ホールに音楽が響く。観客の興奮が一気に高まるのを肌で感じて、男は口角を上げた。テンポの良いその曲に合わせて踊る。
男が高さのある後方倒立回転を決めた時、音楽が変わった。エスニックなアラブ音楽。男の踊りに見とれていた観客は、息を飲む。男の服は西南アジアの民族衣装に変わっていた。踊り続ける男。ジャズ、テクノ、ボサノヴァ・・・音楽が変わる時、男の衣装もがらりと変わる。
最後、オルゴールの素朴な音で丁寧なパントマイムを見せた男が身に纏っていたのは、燕尾服。顔の左半分を仮面が覆っている。オルゴールの音が止み、男はお辞儀をした。アスマ、と男を呼ぶ歓声と大きな拍手が男を称賛する。
ダンスと融合したマジックはショーの序章に過ぎない。アスマこと佐伯東(さえきあずま)のマジックショーが始まった。
「うわっ!これとかさ、何、どうやってんの」
「マジックでできることの範囲を軽く越えてね?」
「それは言いすぎだろ。魔法使いか。滅茶苦茶技術が高いんだよ」
国内の高校でも珍しい、歴史と技術共に申し分のない奇術部。その部室で、高校生マジシャン達がテレビの前で盛り上がっている。
「亨!亨も見ろよ。この間のアスマのアメリカ公演だぜ」
先輩に手を取られ、指先でコインを踊らせていた雨宮亨(あまみやとおる)も彼らの輪に入った。彼らの視線はテレビの画面に集まっている。画面には、燕尾服のマジシャンが一人。
「すっげぇ、かっこいー・・・」
惚れ惚れとしている先輩。画面の中のマジシャンは大掛かりなギミックを使わずに観客を魅了していく。
「アスマってどこで誰にマジック習ったんだ?こんなマジック見たことねぇよ」
マジシャン達の間でも魔法使いと噂されているアスマ。ノーブルな顔立ちが不敵に微笑む。亨の胸は、きゅぅと締め付けられた。
2
亨はアスマがどこで誰にマジックを習ったのか知っている。当然のことだ。アスマは、亨の家で亨の祖父に師事していたのだから。
「亨、このお兄さんは亨も知ってる魔法使いの佐伯さんの息子さんだよ。高校1年生なのに凄い魔法使いなんだ」
アスマは亨が小学1年生の時に祖父に弟子入りした。
「佐伯さん夫婦が3年間の大規模な海外興業をする間、お爺ちゃんのところで魔法使いの修業することになったんだよ。彼の勉強したい魔法は、お爺ちゃんの下で修業した方がいいんだ。佐伯さん夫婦が得意なのは、大がかりなギミックを使う魔法だからね」
父が言う。ギミックとは道具のことだ。亨の祖父は大きなギミックを使わない人だった。従って、人体切断などが演目に入ることはない。当時、時代遅れとさえ言われていた。
「・・・佐伯東だ。よろしく」
東はしゃがみ、小さな亨に握手を求めた。髪の色は茶色で違うけど、佐伯さんに似てかっこいいな、と亨は思う。小さな口を開いた。
「あまみやとおるです。あじゅまさ・・・」
かぁっと頬が染まる。父親の足にしがみついて顔を隠した。
「おやおや。駄目じゃないか、途中で逃げちゃ。東君、亨は『ず』が言えないらしくてね」
父親のフォロー。亨はちらりと東を伺う。
「アスマだ」
亨を見つめる東が言った。
「魔法使いの世界では、そう呼ばれてる」
亨は東を兄のように慕った。忙しい東だが、時々亨の前で魔法を見せた。
「あすま、すごい」
垂れ目の瞳をきらきらと輝かせる亨。目の前には、東が何もないところから出した、たくさんの白いトルコキキョウの花。
「・・・やるよ」
東が亨にトルコキキョウを差し出す。亨は驚いた。固まってしまう。東が花をくれたのは初めてだった。
「何だ、花屋でこれが一番いいって言ってたのは嘘だったのか?」
東は言う。
「いいの・・・?魔法で出した物はあげないって」
「・・・今日は亨の誕生日だろう。特別だ」
ふぃ、とそっぽを向く。亨は花を受け取って、ふにゃっと愛らしい笑みを浮かべた。
「ありがとう」
3
東が忙しくなると、亨は寂しい思いをした。東は酷いときには真夜中に帰宅して、朝早くに学校へ行ってしまう。何日も顔を会わせないこともあった。
そんなある日の夜中、トイレに起きた亨は自室に戻らずに、思い切って東が眠っているベッドに潜り込んだ。朝目覚めると東はそこにいなかったが、それでも咎められなかったことを喜んだ。それ以来、亨はしばしば東のベッドに潜り込むようになった。
そして、亨はそれまであまり好きではなかった冬に感謝した。雪の降るような寒い日の朝は、特に。
「・・・亨・・・」
寝惚け眼で亨を見た東。
「ぬくい・・・」
ぎゅっと抱き締められる。亨の心は歓喜に震えた。
「ぁすま」
もぞ、と身体を捩って、亨はきゅぅきゅぅと東に抱きついた。
「悪い、起こしたな・・・」
眠そうな声。髪を撫でる手。抱き締められたまま、亨はどきどきする。
「遅刻しちゃうよ・・・」
東は高校へ電車で通っていた。小学生の亨と違って、家を早く出る必要がある。
「・・・」
一回強くぎゅっとした後、名残惜しそうに離れていく身体。残された亨は毛布の中で幸福に酔いながら、制服に着替える東を見ていた。
「・・・ひゃ、ぁ」
パジャマの中、素肌をなぞる、少し冷たい大きな手。亨はふるっと震えて、ゆっくりと眠りから目覚める。手は、亨の柔らかな身体をまさぐっている。肌を撫でるうちに、冷たかったそれが温かくなっていった。
「ぁ、はぁ・・・ぅ」
小さな性器をふにふにと揉まれて、腰が震えた。黒い垂れ目を伏せる。少しの恐れの中、初めての感覚を追った。掌全体で優しく愛撫されて、幼いながらも亨の性器は勃起していた。
「ん、ふ、ぁ、ひぁん・・・ぁすま・・・」
真っ暗な部屋。後ろから自分を抱き締めているらしい東を呼ぶ。ちゅ、とうなじにキスを落とした東が、亨の性器を揉みしだく。
「ひゃぁぁん、ぁすま、ぁしゅまぁ・・・おちんち、らめ、らめぇ・・・はひ、ぅ・・・」
爪先を丸めた。精通はしていないが、絶頂に至る。とろりと重く、降りてくる瞼。亨は眠りに落ちた。
朝、目覚めた亨は部屋に違和感を感じた。東がいないことは珍しくないが、荷物が一部不自然になくなっている。洗面所で歯を磨いていた父に尋ねた。本人から聞かなかったのかい?と驚きを見せる父。
「佐伯さん夫婦のいるアメリカへ行ったんだよ。東君が卒業して直ぐに電話があってね、急遽。・・・東君に、自分で伝えるから言わないでくれって頼まれたんだけど・・・」
亨の頬を、涙が伝う。
東が高校を卒業したばかりの、春だった。
4
「カット!」
ステージから降りる亨。白い肌に映える、どこか淫靡な黒いドミノマスクを外した。露になる愛らしい顔。高校生の亨は週に1回、10分間だけ、テレビに出演している。「魔法使いの弟子」と名づけられた子どもを対象にした教育番組の一つで、燕尾服にドミノマスクという姿の亨がマジックを披露するのだ。声は一切発しないサイレントの形式をとっている。
「亨君、とても良かった」
雨宮亨の一番のファンと自称する番組プロデューサー、本郷が言った。彼はマジシャンだった亨の祖父のファンでもある。実は「魔法使いの弟子」の番組枠の最初の企画名は「魔法使い」。出演は亨の祖父に依頼していた。断られてもしつこく食い下がり、半ば強引に孫の亨を紹介して貰ったのだ。名前を出さないこと、ドミノマスクを着けての出演を許可することを約束して貰い、亨は仕事を引き受けた。このマジシャンは誰だ、と問い合わせが来ることは勿論、ゴシップ雑誌で特集を組まれたこともある。誰が何をしようと、本郷を始め番組スタッフが亨の情報を漏らすことはない。
「これに思い入れがあるのかい?」
本郷は白いトルコキキョウを指差した。番組の最後、亨はお辞儀をする前に必ず純白のトルコキキョウを出すマジックを見せる。
「常磐から聞いたよ。最初は薔薇が用意されていたそうじゃないか。白いトルコキキョウにしてって君が頼んだんだってね?」
亨は頷いた。常磐とは番組の美術監督である。彼の美的センスと亨の優美な奇術によって「魔法使いの弟子」は懐古的で耽美な雰囲気を醸していた。濃密なそれは一教育番組でありながら大人をも魅了する。
「常磐があっさり変更を認めただけあって、綺麗な花だ。属名はユーストマ・・・ギリシャ語で良い口。番組はサイレントだから、風刺も効いている」
風刺などという大層な言葉に、亨は思わず首を振った。
「僕、知らなくて・・・。ただ、いちばん好きな花で・・・」
「マジシャンのアスマと関係があるの?」
亨は驚いて本郷を見つめた。
「なんで・・・」
「なんでって、アスマも花のマジックでは必ず白いトルコキキョウを使うじゃないか」
「亨、ちょっとおいで」
スタジオから帰った亨を呼んだのは、祖父。
「アスマから招待状が届いたよ。日本で公演するそうだ」
ほら、と渡された封筒にはご家族でいらしてください、と東の字。既に祖父によって封は切られており、黒いチケットが4枚覗いていた。
5
「アスマ、公演依頼が来てるけど」
アスマのビジネスパートナーのジュリアが書簡の束を見せた。彼女はマネジメントを担当し、出番は少ないが舞台上でのアシスタントも兼ねる。
「・・・いつも通り日本のものは全て断る」
アスマは、日本で公演を行わない。日本には亨がいるから。亨のことを思うと、胸が苦しくなる。最後の最後に、嫌われてもおかしくないことをした。やはり嫌われてしまっただろうかと思うその度に、自業自得だとあの時の自分を呪う。
そんな折に、知り合いのアメリカ人マジシャンが家に遊びに来た。
「な、アスマ、パソコン貸してくれよ。見せたいものがあるんだ」
仕事のやり取りでしか使わないラップトップを渡す。彼は電源を入れて、有名な動画シェアサイトを開いた。ある動画をクリックする。
「この東洋人の子ども、手捌きとかアスマに似てるんだよ」
燕尾服の少年マジシャン。黒いドミノマスクをしていてもわかる。高校生になった亨だった。
画面の中の亨は椅子に座って、不思議の国のアリスの本を読んでいる。おもむろに本を閉じ、被っていたシルクハットを取った。何も入っていないシルクハット。1枚、2枚、トランプのカードを取り出して、カメラはまたハットの底を映した。やはり、何もない。亨がそのハットを逆さにすると、たくさんのトランプカードが溢れた。銀の懐中時計が山になったトランプの上に落下する。何も出なくなったハットに手を入れて、亨は白い兎を出した。兎の首に懐中時計をかけ、鼻先にキスをすると床に下ろす。どこからともなく白いトルコキキョウを出して、口元に笑みをたたえた。お辞儀をする。
「この白いユーストマとかさぁ、確実にアスマのファンじゃん。・・・もしかして、知り合いだったり?」
だったらこのキュートなの紹介してくれよ、とアメリカ人はにやにやした。
「いや・・・知らないな」
嘘を吐いた。
現在の雨宮は亨と祖父と父と母の4人で構成される。日本での公演の依頼を受諾してアメリカから渡ったアスマは、4枚のチケットを送った。
「えっと、Aの24と25、26、27・・・」
ジュリアが舞台の袖から客席を見る。
「ご老人と、色白な黒髪少年と、夫婦・・・ってことはAの24番席のご老人がミスター雨宮で、隣の席の少年がお孫さんね。良かったじゃない、来てくれて」
6
亨の白いトルコキキョウ。小さいが、確かな希望だった。期待に、数年間ずっと沈んでいた気分が浮上する。現金なものだ、とアスマは思う。思い立ったが吉日と言えば聞こえはいいが、こうもすぐに態度を変えた自分に、呆れずにはいられない。
幕の裏で、最終確認をするアスマ。ステージには1LDKの部屋の舞台がセットされている。ベッドとキッチン、クローゼット、扉の埋められた壁を隔てて洗面所があり、部屋を半分に切ったような形をしている。全て客席から見えるようになっていた。ベッドの傍には何枚ものTシャツやジーンズが散らばり、部屋の隅にはギターが立てかけられている。アスマの衣装は、トランクスにタンクトップだけ。ベッドにもぐった。
日本のメディアに露出することのないアスマだから、日本での知名度はそれほど高くない。が、知っている人間はアスマの来日を強く待ち望んでいた。ホールはアスマが指示した、マジックを行い易い大きさのもの。需要に対して収容人数が少なく、4夜連続公演を予定しているが、チケットの時価は10万を越えた。亨の所属する奇術部の先輩も数人、奇跡的にチケットを手に入れている。彼らが亨の座っている席を知ったら、さぞかし驚くだろう。
亨はAの25、つまり最前列の中央の席に座っている。
幕が上がる。ステージは、カーテンの隙間から朝日が差し込む、若い男の部屋だった。じりりり、とけたたましい目覚まし時計の音。ベッドの中の男が布団から腕を伸ばし、目覚まし時計を手探りする。目覚まし時計は床に落ちた。男が、むくりとベッドから起き上がる。客席から、きゃあと黄色い声がした。依然として鳴り続けている時計。茶色い髪をがしがしと左手でかきながら、男はベッドから降り、時計に手を伸ばす。手は空を切った。追いかける男と生き物のように逃げまどう時計。男にセリフはないが、その表情と時計とのコミカルなやりとりに客はくすくすと笑う。壁際に追い詰められた時計は最後の手段、大音量で威嚇する。男は両手で耳を塞ぎ、足で時計を止めた。
やれやれ、といった様子の男。オーディオの電源を入れる。音楽が流れ始めた。
7
ジーンズとTシャツを身につけ、男はキッチンに入った。冷蔵庫を開ける。中にはリンゴが3つ。全部取り出して、リンゴでジャグリングを始めた。ジャグリングしながら歩く。いつの間にかリンゴは4つ5つと増え、また3つに減った。更に2つに減って、最後は1つになっていた。何事もなかったように男がリンゴにかぶりつく。手をかざすと赤かったリンゴが青に変わっていた。またかぶりつく。再び手をかざし、赤いリンゴに戻した。もちろん噛み跡は同じ。ことりと机にリンゴを置いて、男は洗面所へ向かった。前髪をゴムで纏め、洗面所で顔を洗う。タオルで水滴を拭って、鏡を見つめる男は、どこか物足りなさそうにふてくされた。どこからともなく黒いマジックを出して、自分の顔を映す鏡に黒縁の眼鏡を描き足した。満足げに鏡を見つめて、男が指を鳴らす。鏡に描かれていた眼鏡は消え、男の眼元には実体のある眼鏡がかかっていた。
客の拍手と嘆息は尽きない。一人の男の朝の風景を介してマジックを披露していくアスマ。亨を含め客は皆、アスマのマジックにのめり込んでいった。奇術部の先輩達が見ていたアメリカ公演とは構成が全く違い、おどけた演出がなされている。出現させた眼鏡にレンズがないことに気付き大げさに落胆する演技など、思わず笑ってしまう。
そうこうしているうちにショーも終盤に差し掛かった。壁にかかるカレンダーの、今日の日付につけられた赤い丸をじっと見つめた後、男はクローゼットを開けて中に入って行った。ものの数秒でクローゼットから出てきた男は、きっちりとした黒いスーツを身に纏っている。そのままステージの中央に立つ。何も持っていないことを証明するように背中を見せ、また正面を向いた。おもむろに腕を振り上げる。その手には、どこから出したのか、白いトルコキキョウの花束。
アスマはゆっくり、その美しい花を亨に差し出した。
8
アスマが恭しく礼をした。割れんばかりの拍手がホールに響く。亨は白いトルコキキョウの花束をぎゅっと抱き締めた。ショーが終わったのだ。口々にアスマを誉め称えながら、客はまばらにホールを去っていく。
「アスマ君、凄かったわぁ。あのカレンダーと花束、亨の誕生日を覚えててくれてたのかしら。あら・・・?」
亨の母が花束を覗き込む。花束にはパスと、メモが入っていた。
亨はステージの裏へ入るためのパスを首から下げて、メモに書かれた地図を頼りにアスマのいる楽屋へ走る。カレンダーの赤い丸と、白いトルコキキョウの花束。最前列の中央の座席は、チケットに指定されていた。期待してもいいのだろうか。考えて、首を振った。アスマが、期待させるようなことをしたのだ。
「今日だけとは言え、あの朝のコミカルな流れのシナリオで最後プロポーズする男はちょっと唐突だったわね」
くすくすと笑うジュリア。
今日の演技の終盤は亨に花束を渡すために本来のシナリオを変更していた。明日からはシナリオ通りスーツで出勤する男を演じる予定である。
「俺が自分で書いたシナリオにどう変更を入れようが構わないだろ。あぁ、・・・亨は来てくれるだろうか・・・」
心ここに在らずといった様子で呟く。背凭れのある椅子に身体を預け、両手で顔を覆った。
「来てくれるわよ、きっとね」
亨はどきどきしながら楽屋の扉を開けた。女性と話していたアスマが自分を見る。
「亨」
椅子から立ち上がったアスマ。亨は駆け出す。スーツを纏うスタイルの良い身体に抱きついた。
「・・・誕生日おめでとう」
覚えていてくれた。予想はしていたものの、嬉しくて涙腺がゆるむ。亨はアスマの胸に額を押しつけた。早口の英語で亨には理解できなかったが、頭の上で女性の英語が聞こえる。英語で答えるアスマの声もした。亨は顔を上げる。美人の英国人女性が亨ににこやかに手を振っていた。彼女は楽屋から出て行く。
「・・・アスマのこいびと?」
綺麗な女性と、アスマ。思わず、震える声。泣きそうな顔をしている亨。アスマは心中で歓喜する。
「違う。ただのマネージャーだ。たまにマジックのアシスタントをして貰うこともあるが。・・・嫉妬したのか?」
亨はこくんと頷いた。
9
ちゅく、ちゅ、といやらしい音がする。亨は椅子に座ったアスマの上腿に跨がって、唇を受けていた。
「ちゅ、ん、はふ・・・あすま・・・」
舌足らずに何度も名前を繰り返す桃色の唇。どうにも堪らなくなって、アスマは再びその愛しい唇を塞ぐ。
「ん、ん、ちゅ、はぅ・・・ぁ、はぁ・・・」
無意識に腰を擦りつける亨。その熱に手を伸ばし、ズボンの上から撫でた。
「ひぁん・・・」
アスマの手が触れている。亨はぞくぞくと震えた。大きな垂れ目はうるうると潤んでいく。潤むその瞳は、恥じらいながらもしっかりとアスマをとらえていた。
「・・・亨・・・あの夜の続きがしたい・・」
耳元で囁かれる。亨にとって、何よりも甘い意味を持った言葉だった。うっとりとした表情で、頷く。
「・・・・・・ぁ、ひゃ、ぅ・・・」
するりとズボンの中に潜り込んだ手。精巧で緻密な演技をこなすアスマの長くしなやかな指が、亨の性器を扱いた。
「ん、ぁ、ぁ、ひ・・・ぁしゅま、ん、きもち・・・」
とろりと瞳をとろけさせて、亨はアスマの上で震える。甘えきって、腰を揺らした。
「ぁ、は、んぅ・・・しゃせ、しちゃぅ・・・」
切なげに寄せられた眉が悩ましい。アスマはその眉間にキスを落として、更に強い刺激を与えた。十分に潤っている亀頭をくちゅくちゅと擦り、快感に張った睾丸を揉む。
「ひ、ぁあぁ・・・んふ、ん・・・」
亨は鼻から甘い息を漏らし、ふるふると震えた。アスマの手に、ぴゅく、と白い粘膜が吐き出される。力の抜けた身体が、とさりとアスマの胸に納まった。はふはふと息をしている。
「・・・あの時は精通もまだだったのにな・・・」
言いながら、アスマは手を汚した亨の精液を見つめる。亨は真っ赤になってアスマの胸に顔を押しつけた。
「・・・僕だってもう、大人だも・・・」
「大人?まだ高校生だろう?・・・まぁ、マジックは上手くなったな」
どうして知っているの、と顔を上げた亨は硬直する。アスマは手の精液を舐め取っていた。
「・・・っ」
耳まで真っ赤にした亨。アスマはくくっと薄笑いを浮かべる。
「大人って言ったな・・・。証明してもらおうか」
10
アナルで繋がっている。女ではない自分が受ける側になっていることを亨が疑問に思ったのも、痛みを感じていた最初の内だけ。
「ひ、ゃぁぁっ・・・らめ、らめぇ・・・あしゅまぁ・・・」
下から突き上げられている。何度も射精せずに絶頂を極めた亨は、とろけるんじゃないかと思うような快感を享受することでいっぱいいっぱいになっている。
「はひ、はひぅぅ・・・ぁ、ぁ、また、ぃっちゃぅの・・・ゃ、ゃだぁっ、あしゅま、あしゅ、ん、やぁあぁ・・・っ」
ひくひくっと震える身体。
「またイったのか?」
耳元で囁かれて、こくこくと頷いた。
「はぁ、ぅ・・・・・・」
身体の中を巡る大きな快感を逃そうとして、亨は腰をまわす。その卑猥な動きを眺めながら、アスマは中に注ぎ込んだ。
「ひゃぁ・・・っ」
亨は震えながら太ももを擦り合わせる。甘えるように、アスマは震える亨の桃色がかった白い首元に額を寄せた。首筋に噛みつく。休みなく快感を与えられて痙攣し続けていた身体をようやく弛ませて、亨は息を吐いた。
「いやらしいな」
髪を撫でながらアスマは言う。かぁぁ、と亨は頬を染めた。
「・・・いやらしくなんかないも・・・」
「自分で、どんな風になってるのか見ればいい」
向かい合っている亨を抱き上げて、ぐるりと回した。亨の目の前には、楽屋にはなくてはならないもの。鏡。
「らめ、らめぇぇっ、ぁしゅま、ゃぁぁ・・・っ」
アスマはくちゅくちゅと亨の性器も弄りながら、アナルを性器で蹂躙する。鏡には、悶える亨。ちゅ、と頬に唇を落として、アスマは鏡の中の亨に言う。
「間違ってないだろ?可愛くて、いやらしい。俺に愛されている亨だ」
急にぽろぽろと涙が流れてきた。自分がそうなら、アスマはどんな顔をしているのだろう、と亨は思う。見たいと望むのに、涙が邪魔で叶わない。アスマ、と名前を呼んだ。
朝目覚めた亨が一番に見たものは、優しい瞳で自分を見ているアスマだった。
「・・・おかえりなさい」
ただいま、とアスマは微笑んで、亨の頬を撫でる。