バスタブ
幼妻を懐柔
1
峯崎啓史郎(みねざきけいしろう)はベッドの上で震えている少年、韮澤律(にらさわりつ)を見詰めた。泣いていたらしく、目の周りが赤らんでいる。啓史郎が乗り上げると、ベッドはぎしりと軋んだ。びくり、と律の肩が揺れる。
「・・・泣き腫らすほど、俺の妻が嫌か」
瞼に唇が触れて、律は身体を強ばらせた。熱い吐息に首筋を愛撫されて、予感が確信に変わる。夜が来たのだ。律は泣きたくなる。啓史郎が律を支配する、夜。
「だって・・・けぃしろうさん、ぼくに、いけないこと、するの・・・」
律の頬が染まる。
「いけないこと・・・?例えば?」
薄く笑いながら、おもむろに律の手を取った。白く小さなそれを撫でる。指に嵌まる純銀の指環に口づけた。啓史郎が律に与えた、所有の証だ。そのまま、その指に舌を這わせる。ちゅぷ、と口に含み、指の腹を念入りに擽った。細い指の間、薄い水かき、柔らかな掌。ちゅ、ちゅ、と時折吸いながら、舐める。濃密な空気に、息が上がり、瞳が潤んだ。耐えきれず、律は自由な右手の人差し指を折り、そのかたい節を唇で挟む。脳みそがどろどろに溶けていくような気がした。
「どうなんだ?律」
黒縁眼鏡の硝子の奥、啓史郎の冷たい、しかしどこか熱を孕んだ瞳が律を見た。鼻が触れるほどに近づく。律は全身を火照らせた。熱の中心は腰のあたりにあり、律には最早、ふともものつけ根の感覚がなかった。瞳を伏せる。
「・・・慎まし過ぎるのも問題だな」
唇が奪われた。
透明な糸を引いて離れた啓史郎の薄くかたちの良い唇。律はひくひくと震えていた。
「キスだけでイったのか」
ぐっしょりと濡れた股間に、啓史郎は手を触れる。
律の帰る家が啓史郎のマンションとなったのは、一週間ほど前のことだ。父親の会社が倒産し、律は父親の取引先の一つであった大企業の峯崎に売られた。実際に律を買ったのは、企業峯崎ではなく大学生の啓史郎である。啓史郎は父親に借金することで金を作り、律の父親と取引をした。今や律は啓史郎の養子であり、妻だった。
2
ひくつく律を裸にした啓史郎は律の性器からアナルにかけて、たっぷりのローションを垂らした。体温より少し冷たい粘液が肌を撫でる感覚に、身震いする。眼鏡を外した啓史郎が、律の首筋に顔を埋めた。大きな手のひらが律の性器に被さり、腹に押しつけるように揉む。
「ひ、ふぅ・・・だめ、だめぇ・・・ぉちんち、ぐちゅぐちゅ、しなぃで・・・」
弱い力で、啓史郎の肩を押した。抵抗を見せるその小さな手が、最終的にはすがるように自分のシャツを掴むことになるのを、啓史郎は知っている。
「抵抗されるといじめたくなる・・・」
息と声とを意図的に、耳へ吹き込んだ。色っぽい、掠れた低音。ついでとばかりに伸びた熱い舌が、耳を犯す。律は息を飲んで、腰を痙攣させた。再びの射精。びゅっ、びゅっと音が聞こえたような気がした。啓史郎の指の間から漏れた精液が腹を汚す。びくびくと震えながら、律は無意識に腰を浮かせ、啓史郎の手のひらに性器を押しつけていた。
「・・・律」
熱っぽい声で名前を呼ばれ、長い中指がアナルの縁を撫でた。律は絶頂の余韻に意識を浸しながら、啓史郎を見る。啓史郎はくちゅん、と一気に第二関節まで埋めた。行為に慣れた律のアナルは容易く啓史郎を受け入れる。
「きゃふ・・・ぁ、ぁ、だ、めぇ・・・」
ふるふると律の睫毛が震えるのを見ながら、啓史郎は虚無的に笑った。
「この期に及んでまだ駄目だと言う」
律の目元に唇を落とす。
「困った妻だ」
いきなり指が2本に増えて、律の中を刺激した。
「ひ、ぁ、ぁぁん・・・っ」
前立腺を何度も擦り上げていく。律の性器は固さを取り戻し、蜜を零した。感じやすい律は、アナルの刺激だけでイくことができる。何も考えられずに、ただ絶頂へと追い詰められていく。指が抜かれて、律はあの狂おしい熱に身構えた。昨日は、ついに入れられただけで絶頂に到ってしまった。啓史郎のシャツを握る手の力を無意識に強くする。
「・・・?」
一向に入ってくる気配がない。律はおずおずと啓史郎を見上げた。啓史郎が笑う。
「どこに、何が欲しいんだ?律」
アナルはひくひくと痙攣していた。律は震える。啓史郎が律の頬を撫でた。肌を擦る固い、指環の感触がある。律は小さな唇を開いた。思いがけず漏れた吐息に、羞恥する。
「・・・けいしろぅさんの、ぉちんちん、を、りつの、りつのおしりに、くださぃ・・・」
熱に浮かされる。啓史郎がバックルを外す音を聞きながら、律は腰を震わせた。
3
幼稚園からエスカレーター式の学校で、律の周りは経営者や事業主の子どもばかりだった。学校の教育方針も保護者の要望に相応する。毎年、国語の時間に夢について書かせ、それらは親に渡される。父親の会社が倒産する前に4年生の律が書いた作文は、いずれ技術者として父親の会社に就職する、という内容だった。
父親の会社が倒産することを、律は本を返すため父親の書斎に入った時に知った。その日、律は少し早く帰っていた。律が書斎の扉を開けると、本棚の奥から父の声が聞こえていた。電話をしているのだと判断し、書斎を去ろうとした律が聞いたのは、律の値段。驚きに動けずにいる律が会話を聞いていると、父親の会社の倒産が伺えた。莫大な借金が残ってしまうことも。父親の電話の相手が、峯崎啓史郎だと知ったのは彼が律を迎えに来た時だ。
父親に数回連れられて行った商談の機会を兼ねた立食会で、少し顔を合わせた記憶がある、大企業の息子。長男は既に峯崎に勤めており、社交的で外国語を巧みに操り海外との提携に貢献している。次男は理知的で、IT企業峯崎を支える優秀な技術者になるだろうと言われている大学生。啓史郎の作ったあるプログラムが既に峯崎での使用を検討する段階にあるという噂も聞いていた。能力の優れた、企業の御曹司次男。自分の憧れの、目標となる人物。それが律にとっての啓史郎だった。
朝、目覚めると啓史郎の腕の中にいる。いつも情事の途中に意識を失くす律の身体は、清められている。昨晩のことを思い出して、律は泣きたくなった。自分が啓史郎の妻であることからまず間違いだと思っている。それなのに、その延長にあると考えられるいやらしい行為を、自ら望んでしまった。目覚まし時計が鳴る。律の肌に触れていた手が、ベッドのサイドチェストに伸びた。その手は目覚まし時計を止めて、眼鏡を掴むと元の位置に戻る。啓史郎が起きる気配はない。
「啓史郎さん、」
少し揺する。啓史郎は朝に弱い。うっすらと、切れ長の二重の目が開かれて、律を見た。むくりと起き上がる。黒いスウェットのズボンを穿いて、上半身裸のまま啓史郎はキッチンへ行ってしまう。朝は、啓史郎の作ったご飯を食べる。夕飯に手製のイタリアンを振る舞って貰ったこともある。何でも作れるが、朝は決まって和食だった。小学校の制服を着て、律は椅子に座る。
4
学校から帰った律はまず宿題をする。宿題をして、ご飯を食べて、お風呂に入る。いつも夕飯は啓史郎と一緒に食べるのだが、今日は律が帰るとできあがっており、食べるようにとメモがあった。啓史郎は自室にこもっている。お風呂に入り、ベッドに潜った。昨晩のことがまだ頭に残っている。律はどう振る舞えばいいのかと悶々と考えているうちに、眠りについていた。
目覚まし時計のアラーム音で目が覚める。啓史郎はいなかった。朝食も既にできあがっている。制服を着て、啓史郎の自室を覗いた。コンピュータに向かう背中は、携帯電話で話ながら、忙しなくキーボードを叩いている。律はそっとドアを閉めた。
そんな日が3日続いた晩、お風呂から上がった律の目が、洗濯かごの中の啓史郎の白いシャツに留まった。取り上げて、抱きしめる。深く息を吸えば、啓史郎の匂いがした。
「・・・んぅ」
身体がじわじわと火照る。腰が疼いた。律は裸のまま床に座り込んで、片手を股間に忍ばせる。啓史郎がするように、揉んだ。
「は、ん・・・ん・・・」
腰が震える。目を閉じて、啓史郎を思う。夜の啓史郎は異常だ。律が抵抗できるのは口だけで、身体は啓史郎に支配される。律はそれが、怖くて仕方がない。
「ひ、ぅ・・・ぁ・・・」
手が、止まらない。律の手は今、啓史郎の手だった。そこにいないのに、律を支配する。怖かった。律の中をいっぱいにする。律は、啓史郎の名を呼んだ。
「一人でするのは、いやらしいことじゃないのか?」
耳を擽る低い声に、律は後ろを振り返る。啓史郎の姿を認めて、咄嗟に洗濯機に背中を着けた。シャツで身体を隠す。声が出ない。啓史郎が目の前で服を脱いでいく。抱き上げられた。
「ひぁぁん・・・」
アナルにずっぽりと、啓史郎の性器が埋まっている。律は、お湯の中でひくひくと震えた。
「ふぇ、ゃ、ぃゃぁ・・・」
腰を振ってしまう。
「・・・嫌?」
啓史郎が全てを見透かすように、律を見ていた。俯く。怖い、と律は言った。
5
支配されるのが、怖い。自分が自分でなくなってしまうのが怖い。いけないことをされて気持ち良くなってしまうのが怖い。律は泣いた。
「どうしてぼくが、けいしろうさんのつまなの・・・?」
わからないのが、怖い。怖いのは、嫌だった。
決まっているだろう、と啓史郎が笑う。
「俺が、律を好きだからだ」
律の手を取って、指環に口づけた。
「・・・俺のことを好きになって欲しい。我慢できずに、身体から口説くことにしたんだが」
どうだろうな、と律を見る。律は羞恥に震えた。律の身体は、間違いなく啓史郎のことが好きだ。ならば、心は。
「ひ、ぁぅ、こしゅれちゃ、の・・・でゆ、でゅう・・・ゃぁぁん・・・」
律は腰をくん、と突き出して、小刻みに振る。ちゃぷちゃぷと音がする。お湯の中で射精した。
「ふ、んぅ・・・」
気持ちよくて、恍惚として、律は啓史郎の胸に頬をつけて息を吐く。啓史郎は律を揺らした。熱く固い性器がアナルを穿つ。
「ひぃん・・・ふぇ、ぅ・・・ぁっ、ぁ・・・ん、らめ、ぇ・・・」
噛みつくように乱暴に、唇を塞がれた。ちゅ、くちゅと音を立てて、啓史郎の舌が律の口内を愛撫する。
「は、ぁ、・・・・・・欲求不満とは言え俺のシャツの匂いを嗅ぎながらオナニーしていたから落ちたと思えば、嫌、駄目だと言う。キスだけでイってみせたり、今だって、こんなに気持ち良さそうなエロい顔してる癖に・・・気持ちいい、の間違いだろう?」
啓史郎の調子はいつもと変わらない。しかし、律は彼が怒っているのだと感じた。責められている。律はぽろぽろと涙を流した。
「きもちぃのは、だめなの・・・」
啓史郎の胸に手をついて、身体を離す。
「ぉちんちん、ぃれられて、きもちく、なって・・・ぼく、ぼく・・・」
「・・・どうしよう、って?」
言葉尻をとった啓史郎に、律はしゃくり上げながらこくりと頷いた。啓史郎が、涙を舐め上げる。そういうことか、と声が聞こえて、律は顔を上げた。
「どうもしなくていい。気持ち良くなればいいんだ。・・・俺の妻なんだから」
律は啓史郎の唇を受ける。
「ひ、ぁぁぁぁん、・・・きもちぃ、きもちくて、おかしくなっちゃ・・・ぁたま、とけちゃぅ・・・」
ベッドに組み敷かれて、律は悶えた。呼吸もままならなず、涙で視界がぼやけている。快楽だけが、鮮やかに律の身体を染めていた。
「はぁ、ぅ・・・ばかになっちゃ・・・」
眉根を寄せる律に、啓史郎は馬鹿になればいいじゃないかと言おうとして止めた。
「ああ・・・律は俺みたいなプログラマーになるために勉強を頑張るんだったか」
律は耳を疑った。
「どうして・・・?」
言ったことはない筈だ。父親にも言った覚えはない。律の髪をかきあげて、啓史郎は作文、と言った。
「律の父さんが読ませてくれた。・・・心の方も、見込みがないわけじゃない。そうだろう?」
囁かれて、律は震える。律が作文に書いた、憧れの人。
「早く落ちてこい、律」
甘い言葉に、脳が蕩ける。