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怪盗は夜に微笑む
1
スラムに一つの命が生まれました。
命は子どもになりました。
子どもは父と母に、家屋から外へ出ることを禁止され、母に読み書きを習い日々を過ごしました。
子どもは、少年になりました。
少年は父と母に、髪と瞳の色を隠すための変装を教わり、黒を纏って外の世界に出ました。
少年は、青年になりました。
青年は独学で世界を学び、独自の考えと計画をじっくりと時間をかけて練り、また、自らをアベルと名乗りました。
青年は、アベルになりました。
アベルはやがて、爵位を授かりました。
アベルは、貴族になりました。
貴族のアベルは、更に爵位を上げ、貧しい者に恵みました。
アベルはやがて、盗みを働きました。
アベルは、怪盗になりました。
怪盗のアベルは、盗品を金に変え、貧しい者へ与えました。
銀の髪、紫の瞳の怪盗の噂は、すぐに広まり、シフと呼ばれました。
2
こんこんとノックがふたつ。茶色の髪、緑の瞳の愛らしい少年はベッドから体を起こし、涙を拭って部屋の扉を開けた。
「只今帰りました」
黒い髪に黒い瞳の美男がしゃがみ、少年を抱き締める。
「トワ、お帰りなさい」
少年は男の唇を頬に受けて、小さくはにかんだ。
「おや・・・また泣いていたのですね」
男は困った風な表情をし、少年の赤らんだ目尻に唇をつける。
「泣いてないもん・・・」
そう言って、早くも瞳を潤ませる少年。男はあやすように、少年の顔中に唇の雨を降らせた。
「今まで何度も王子に召されていますが、私が夜にジルを独りにさせたことが一度でもありますか?」
少年はふるふると首を振る。
少年は名をジルという。この名は、親が与えたものではない。ジルは小さい頃に名も与えられずに捨てられた。拾い、名を与えたのは男、トワイナス・アベルである。
「トワ、すき・・・」
きゅうきゅうと抱きつくジルの髪を優しく撫でて、トワイナスは微笑む。
「私もですよ、ジル」
ジルを抱き上げベッドに降ろし、カツラとコンタクトを外した。
世にも珍しい銀の髪と紫の瞳を持つトワイナスは、アベルでありシフであった男の末裔。数百年近く一族は代々、貴族と怪盗の2つの顔を守ってきた。彼もまた、貴族アベルであり、怪盗シフである。
貧しい者に貴族として恵み、怪盗として与えるやり方は初代から変わらない。
しかし、トワイナスの祖父は王族の意識を変えなければ根本的な解決には至らないとし、貴族アベルの顔を持って、王に自らを王子の教育係に志願した。今の王は、当時のトワイナスの祖父が教育した王子。まだ問題点はあるものの、国は以前より見違えて整っている。
そして、トワイナスも、現王の息子である王子の教育係をしていた。
3
「好き、か・・・」
トワイナスは、眠ったジルの顔を見つめて呟く。私もですよと言いながら、トワイナスはジルの言う好きと自分の言う好きがイコールだとは思っていなかった。ジルの唇に指で触れる。
「私は、色々と我慢しているのですよ?ジル・・・」
安らかな顔で眠るジルに囁く。苦笑した。
「トワ、明日はバノン公爵のダイヤモンドを盗むの?」
カップに紅茶を注ぐトワイナス。手元から目を離さずに問いで返した。
「・・・予告状を読んだのですか?」
こくりと頷くジル。
「今度こそ、トワと一緒に連れてって・・・?」
ジルは懇願した。このお願いごとを口にするのは、初めてではない。
ジルはトワイナスの正式な助手である。ジルの仕事は催眠ガスや催涙ガスの調合であったり、とにかく屋敷内の安全な場所で行うもの。利口なジルの働きは、忙しいトワイナスには有難く、感謝している。しかし、ジルはもっと役に立ちたい、もっと一緒の時間を過ごしたいと思わずにはいられない。トワイナスが最近急に忙しくなり、ジルは焦っていた。独りの時に寂しくて泣いてしまうことも、多くなっていた。
シフは初代からずっと単独で動いており、盗みの場に助手は必要ない。ましてや、トワイナスはジルに万が一のことがあったら、と思わずにはいられない。
「ジルを連れていくことはできません」
ジルは、まだ10歳と幼い。
4
部屋に戻ったジルは、柔らかなベッドにぽふっと倒れ込んだ。
「とわ・・・」
潤む、綺麗な緑の瞳。バノン公爵邸の見取り図を取り出し、見つめた。そして、ジルは心に決める。
予告当日であるにも関わらず、トワイナスは午後から王宮に召されており、変装をしていた。カツラを被り、コンタクトを嵌める。自らの体に合わせて誂えられた、上品で洗練された礼服を纏う。数百年もの間、王族も貴族も、黒髪黒眼のアベル一族に騙され続けている。隣にいる賢く端正な容姿の紳士が世間を賑わす怪盗だとは、思いもしない。
「行って参ります」
トワイナスはジルの頬に唇をつけて、屋敷を出た。
ジルは白いワイシャツに黒いベスト、黒い短パンを着た。それは、トワイナスの普段着を兼ねた仕事着とお揃いで、ジルのお気に入りである。午後6時。ジルもまた、支度をして屋敷を出た。
ジルは木の影からバノン公爵の豪邸を見た。トワイナスの犯行予告は、今日の午後8時。ジルはバノン邸の見取り図を確認して、折り畳み、鞄に仕舞った。既にバノン公爵は金で雇った人間で厳重に警備をしている。ジルは裏口へ回り、風上であることを確認すると、鞄から催眠ガスの玉を出して投げた。裏口を警備している屈強な男達が地面に膝をついて、寝息をたて始める。
5
「止まれ」
ダイヤモンドの保管されている部屋まで後少しと言うところで、ジルはバノン公爵の息子ゼノに見つかった。
「怪盗シフは銀髪に紫眼と聞く。小さな子どもに変装しているとも考えられない。お前は誰だ?」
豪奢な廊下でジルとゼノは向かい合う。青ざめて、じり、とジルは後ずさった。催眠ガスの玉を取ろうと鞄に手を入れた瞬間、素早くゼノが床を蹴る。動くこともできずに、ジルは捕えられた。
ベッドヘッドの木の格子に右手首を縄で縛りつけられたジルは啜り泣く。勝手な行動の結果の、明らかな失態。トワイナスに嫌われてしまう。そればかりが頭を廻った。
「公爵家に忍び込むとはいい度胸だ・・・。シフに関係あろうがなかろうが、勝手に入って来た人間に容赦はしない」
顎を取られて、見つめられた。ジルは緑の瞳を潤ませて震える。
「綺麗な顔をしているな。見世物小屋にでも売れば、さぞかしいい値で引き取ってもらえるだろう・・・」
品定めするような鋭い眼。唇がいやらしく歪んだ。
「・・・見世物小屋でなぶられる前に、俺が味見をしてやろうか」
ぎっ、とゼノがベッドに体重をかける。ジルに覆い被さって、顔を近づけた。首筋を舌が這う。
「ゃ、ぃやぁ・・・」
おぞましくて頭を振った。突然、ゼノの動きが止まり、どさりと力なくジルに重なった。
「ジル」
トワイナスの声。ゼノは意識を失っていた。手首を縛る縄をナイフで切って、トワイナスはジルを抱き上げた。
「トワ、とわ、ごめんなさい・・・っ」
ぎゅっとしがみつく。
6
屋敷に帰ったトワイナスは無言。彼の腕に抱かれるジルは涙を流しながらごめんなさいを繰り返す。ベッドに降ろされて、涙目でトワイナスを見つめた。
「とわのやくにたちたかったの・・・」
トワイナスは、ベッドの脇に膝をついて、許しを乞う唇を塞ぐ。触れるだけのキスだった。
「・・・許せません」
お仕置きです、と今まで聞いたことのない冷たい声で言われ、ジルは青ざめた。
「おしおき・・・?」
「そう。お仕置きです、ジル」
黒いベストと白いワイシャツを乱暴に捲りあげられて、剥き出しにされた生白い肌。トワイナスの赤い舌が、臍を舐め、乳首をねぶる。唾液を纏った舌が乳首を刺激した。ジルはひくひくと震える。
「とわ、とゎ・・・ゃぁ・・・っ」
未知の感覚に、ジルの腰が揺れる。首筋だが、ゼノにも舐められたことを思い出し、ある考えが頭を支配した。声が震えて、鼻の奥がつんとする。
「あじみ、してるの?・・・みせものごやに、ぼくを、うるの・・・?」
見世物小屋がいかなるものなのか、ジルは知らない。しかし、トワイナスのいない場所で、そこに売られるということが捨てられるも同じであることは、わかる。
「・・・見世物小屋に売る、とゼノ子爵に言われたのですか?」
こくりと頷くジル。トワイナスの紫の瞳は冷たい色をたたえている。
「売りはしません。しかし、お仕置きは見世物小屋がすることと同じかもしれませんね」
ひんやりとした手がジルのズボンに潜り込んで、小さな性器を掴んだ。
7
短パンとパンツの下で、性器を揉まれている。ジルは腰を振って泣いていた。
「ぉちんちん、もみもみしなぃでぇ・・・ひぁ、ぁん・・・」
はぁはぁと息を吐く。トワイナスは手を休めずに、ジルの乳首も吸っては舐めていた。ぽっちりとして、いやらしく色づいている。
「ひぁあんっ・・・おっぱぃ、ぃゃぁ・・・」
ぴくぴくと性器を震わせる。
「なぜ?」
トワイナスに問われ、ジルは喘ぎながら答える。
「おちんちのあたりが、へん・・・ぁあんっ」
トワイナスの手がジルの性器の皮を剥いた。布の下で何が起こっているのか、ジルにはわからない。
「ゃ、ゃ、とわぁ・・・ぁ、ぁ・・・」
性器の先端がじんじんした。
「ああ・・・いやらしい蜜が垂れてきましたよ・・・?」
性器の先端を擦るトワイナス。くちゅくちゅという音と一緒に、快感がジルを襲う。
「ぁはぁん!らめ、くちゅってしちゃ、らめぇ・・・ひぁぁあん・・・!」
腰をくいっと浮かせて、ゆらゆらと揺らめかせながら、トワイナスの手に精液をかける。
「は、は、ひぅ・・・ん」
くったりと射精感に酔う。トワイナスはそのまま、イったばかりでぴくぴくしている性器をぐちゃぐちゃと扱く。
「ふぇ・・・ん、ぁ、おちんち、らめぇ・・・」
らめ、らめ、と力なく首を振って、泣きじゃくる。
「・・・ジル、言ったでしょう。これはお仕置きなのです」
言いながら、トワイナスはジルの衣類を全て取り払った。
8
裸に剥かれたジルは、一切服を乱していないトワイナスに性器をしゃぶられ、自分で乳首をいじっていた。
「ぁあん、おちんち、でゆぅ・・・とゎ、とゎぁ・・・」
射精前の痙攣に、爪先を震わせる。先端の窪みを舌で抉られ、悲鳴を上げた。
「ひゃぁぁぁ・・・っ!」
びちびちと性器が跳ねる。トワイナスの口内に精液が吐き出された。
「ぁ、ぁ・・・」
トワイナスは快感に震えるジルのアナルを、精液を塗り込みながらほぐす。
「ん、ひ、ぁ・・・」
はくはくと息をするジル。トワイナスの狂暴な性器が、ジルの貞淑な桜色のアナルを何度も蹂躙していた。白濁した液体が漏れて、卑猥。
「ひゃぁん、おちんちん、また、ごりゅごりゅしちゃぅの・・・」
快感にひくっとしゃくりあげ、覆い被さるトワイナスを潤む緑の瞳で見つめる。トワイナスはジルの目尻に唇を落とした。
「・・・ジル、もう二度と危ない真似はしないと約束してください」
若干の温かさを取り戻した紫の瞳。ジルは頷く。捨てないでと繰り返した。
「・・・私がジルを捨てるわけないでしょう」
繋がったまま抱き上げて、膝に乗せる。小さな震える体を抱き締めた。
「屋敷に帰って、ジルがいないことに気づいた私の不安がわかりますか?」
ジルはトワイナスのワイシャツの胸元を涙で湿らせる。
「だって・・・とゎが、忙しくて、ひとりぼっちで、さみしかったの・・・」
トワイナスはジルの耳に唇を寄せた。
「・・・忙しいのも今日まで。明日、何が行われるか知っていますか?」
9
首を振るジル。トワイナスは笑む。
「王子の即位式です。即位と一緒に私と王子が作った、貧しい者を苦しめることのない新しい法律が発表されます」
ジルはトワイナスを見つめた。
「王子様の教育係も終わり?」
トワイナスは頷く。
「長年のアベルの目標は達成されました。盗みを働く必要もなくなります。助手も、お役御免です」
トワイナスはジルの唇を唇で塞いで、舌で貪った。
「ちゅ、む・・・ふ、ぁ・・・」
ちゅく、と舌を吸う。震えてもたれ掛かったジルに囁いた。
「寂しい思いをさせてすみませんでした。私の代で法律ができないようであれば、子を残さなければなりません。・・・最近ずっと忙しかったのは、こうやってジルと一緒になるために、アベルの子孫を残さなくても良い状況を作ることに躍起になっていたからです」
顔中に、キスを落とす。
「愛しています、ジル。私の恋人になってください」
ジルはぽろりと涙を流した。
「ジル・・・返事を」
耳に唇が触れる。掠れた声で名を呼ばれ、ジルはお尻をきゅんと締めた。返事など、とうに決まっている。
もうどこにも布施する必要のない大きなダイヤモンドを眺めて、指環にでもしようかと考える。
長く続いた貴族アベルの血を絶やす。トワイナスは微笑んで、疲れて眠ったジルの唇にキスをした。