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暖房と冷房



僕は、クーラーです。
今時はエアコンが主流で、冷暖房を一台に備えているもの。だけど、大学生の僕のご主人は、買い換えもせずに冷房機能しかない僕をかれこれ6年間、ずっと使っています。一度大学受験の時にご主人の親が買い替える話を持ちかけたのに、ご主人はいらないの一点張りでした。僕にはない暖房機能のためにご主人が購入したのが、ハロゲンヒーター。よくあるパラボラ型のハロゲンヒーターは反射板に埃がついて引火する可能性が高いということで、ご主人はタワー型のハロゲンヒーターを選びました。


「ハロン、今日も世話になる。冬など、早く終わって欲しいものだ」
「あーマジ寒くて身体が芯から冷えちまう」
ハサミとカッターがハロゲンヒーターの傍に寄ります。デザイナーズのお洒落な文房具の2人は、ステンレスのカッコいいスーツを着ていて、すらりと背が高い。人間には見えないみたいですが、僕たち無機物も人間みたいに容姿と意思、それに無機物同士で呼び合う時の名前があります。
「シーザにカット。早くこっちへ」
ハサミがシーザさん、カッターがカットさんです。ハロンは、ハロゲンヒーター。きらきら輝くオレンジにも見える赤い髪と、優しくて甘いルックスのハロンは、皆の人気者です。
「ハロン、あたしもお願い」
水糊のお姉さんのノリコさんも。
「俺も俺も」
「私もいいかしら」
特に冬は、皆がハロンの傍に集まります。
「水分含量の多い人は効率良く暖まるので注意が必要です。それから、可燃性のある人は危険なので十分に俺との距離を取ってください」
ハロンが言いました。皆、それぞれの位置につきます。
「クーはどう?暖まる?」
とくん、と胸が高鳴りました。クーとは、僕のこと。いつも、優しいハロンは部屋の天井の角にいる僕も誘ってくれます。
「・・・僕は結構です」
本当は寒いし寂しい。ハロンに甘えたい。でも僕は、彼の好意にどうしても甘えられません。だって、冷たい冷房の僕が、暖房のハロンに暖められるなんて、変です。




「・・・僕は結構です」
もしかしたらと思い、俺は毎日お誘いしてみるのだけど、可愛いあの子の返事が変わることはない。クーラーのクーは今日もくいっとノンフレームの眼鏡を指先で押し上げて、俺の誘いを断った。当たり前だが、無機物は成長しない。クーラーにしてはかなりコンパクトなクーは、可愛らしい子どもの姿をしている。

「ハロン、早くしてくれよー」
カットに急かされ、俺は頷いて目を閉じた。意識を集中させる。身体の中の電気エネルギーを熱エネルギーに変える。身体が発光し、熱が外に放射されるのを感じた。

俺の身体はフィラメントのタングステンを高温にして、タングステンとハロゲンによる化学反応を繰り返す構造になっているらしい。また、同じ工場で知り合ったハロゲンランプの仲間には、自動車のフォグランプや店舗のダウンライトになる者もいた。ハロゲンの一族は、ギリシャ語で「塩を作る」の意味をもつハロス・ゲンナオーの由緒正しい血筋だとも聞いた。

「あったかーい」
きゃっきゃっとはしゃぐクリップの子どもたち。思わず笑みがこぼれた。
「熱すぎたりしないか?」
自分で自分が放射している熱がどれくらいなのかを体感することはできないが、放射する熱量は意識して調節することができる。
「ちょうどだよー」
「ちょうどー」
「ハロンのおにーちゃんだいすきー」
すき、か。クーが俺に言ってくれたらどんなにいいだろう。

可愛らしく切り揃えられた白い髪を涼しい風になびかせて、クーが首を傾げて微笑んだ。桜色の唇から発せられる涼やかな声で俺に・・・。

「ぅ、おにーちゃ、あついょぅ」
「やだ、ハロンちょっと、あつい・・・!」
「っ、ハロン!!」
がんっとシーザに叩かれた。気づけば、熱の放射量を誤ってしまっていたらしい。大事には至らなかったものの、皆びっくりしている。
「ハロンおにーちゃん、はなぢがでてるよ」
ごびょうき?と心配そうにするクリップの子ども達。
「いいや、俺にはわかる。病気なんかじゃねぇ。にやにやしやがって、何妄想してたんだ!」
勘のいいカットに殴られた。




わいわいとハロン達が騒いでいます。笑い声も聞こえました。ハロンが、笑っています。あの輪の中に入れない僕には、向けられることのないハロンの笑顔。僕は羨ましく思う気持ちを抑えて、抱えた膝に顔を押しつけます。

「クー、うじうじすんな。鬱陶しい」
黒いカーテンのクロさんの声でした。ごめんなさい、と僕は謝ります。大学とバイトで忙しいご主人の日中の快眠は、遮光度99%のクロさんが守っています。
「クロ、そんな言い方はないでしょう。クー、謝る必要なんてありませんよ」
クロさんと対になっている、白くて薄い生地のカーテンのシロさん。クロさんは、シロさんに頭が上がりません。
「・・・でも、俺も寂しそうなクーが心配です。どうしていつも断るのですか?本当はハロンのところへ行きたいのでしょう?」
僕は頷きました。
「行きたい・・・」
シロさんがにっこり微笑む。
「素直な子は幸せになれます」
クロさんが苦笑しました。
「・・・ったく、明日こそはハロンのところへ行けよ」
でも、と僕は首を振ります。
「僕は冷房だから、」
ぐいっと手を引かれました。
「こんな冷たい手しといて、馬鹿言ってんな。・・・今すぐでもハロンの奴のところに連れていきてぇぐらいだぜ」
ぎゅっとクロさんの大きな体に包み込まれます。クロさんは布だから、寒い冬も僕ほど冷えてしまわないようでした。
「ぃ、今すぐはだめです・・・っ」
心の準備ができていません、とクロさんの腕の中の僕。
「可愛い、クー」
シロさんがくすくす笑って言いました。


次の日、いつもハロンが皆を暖かくする時間が来て、僕はどきどきしながらお誘いを待ちました。クロさんとシロさんと話をして、セリフも決めました。「僕も暖めてください」と恥ずかしいけど、頑張って言うつもりです。



「暖まるわぁ、ハロン」
「ハロンおにーちゃん、ぽかぽかー」
「最高だぜ・・・」
賑やかな声がしています。

今日、僕は初めて、ハロンに誘われませんでした。

「おい、泣くな。偶々だろ」
「きっと、何かあったのですよ」
2人の慰めの声が聞こえます。偶々だと思うことにしました。

だけど、その次の日も、更に次の日も、ハロンが僕を誘ってくれることはありませんでした。




黒いカーテンに、クーが抱き締められていた。そう言えば、クーはあのカーテンと仲がいい。窓際の物同士、よく話している姿を見る。

「何物思いに浸ってんだ」
カットだった。
「・・・失恋したんだ」
苦笑が漏れる。
「あ?嘘だろ。誰にだよ。お前、クーが好きだったんじゃねぇの」
勘のいい奴だとは思っていたが、驚いた。
「お前、かなり分かりやすいぞ?」
そんな驚きすら表情に出してしまっているのか、カットは呆れた顔をした。
「とにかく、クーが好きなんだよな。何でいきなり失恋なんだ」
碌に話もしたことないくせに、とカットは言う。
「カーテンがクーを抱き締めていた」
「そうか、それで最近クーを誘わねぇのか。押してだめなら引いてみろを実践してるものと思って、皆黙ってたんだぜ?」
「皆?」
あんだけ懲りずに誘ってりゃ、皆気づくわな、とカット。顔から火が出そうだ。
「うぉぁぁっあっちぃ!」
実際に火が出ていたらしい。カットが俺を殴る。
「今更恥ずかしがってんじゃねぇよ!!」
「うわー・・・でも、そうだな、今更か・・・」
冬は毎日クーを誘っていたのに、一回も良い返事をもらったことがない。しょげる俺にカットは言った。
「そうだ、今更だ。最後に男らしく当たって砕けてみろ。・・・俺にいい案があるぞ、ハロン。お前とクーを2人っきりにしてやる」


俺は、熱を放射していた。高温ではなく、寧ろいつも皆を暖める時より少し少ないくらいの熱量。いつもと違うのは、今の俺のいる場所が誰もいない真っ暗な押し入れの中だと言うこと。

俺とクーを2人っきりにするためにカットが提案した計画は、至ってシンプルだった。カットがクーに、俺の調子が悪いと伝え、クーの冷房機能で俺を冷やすように頼む。それだけだ。
恐らく、クーは俺を冷やしに来てくれるだろう。汗だくで帰ってきたこの部屋の主人に、小さな口で懸命に息を出して冷やそうと頑張る姿は本当にいじらしく、何度主人を妬んだかわからない。クーは冷房という使命に、忠実だ。

こんな騙すような真似は不本意だ、と一瞬思ったものの、誘惑に耐えられなかった。
「一度冷やしてもらうくらい、いいよな」
呟く。




ハロンの姿が見えないな、とぼんやりしながら思う。愛想を尽かされたのだと悲しく思いながらも、僕はまだ以前のようにハロンを探してしまいます。きょろきょろしていると、下から僕の名前を呼ぶ声が聞こえました。カットさんです。僕に用事だなんて珍しい。
「ハロンの調子が悪いみたいなんだ。介抱してやってくれないか」
クーにしか頼めないんだ、とカットさんが言います。ハロンの力になれる、そう思うと、僕は不謹慎にも嬉しくなりました。急いで下に降ります。カットさんに案内されて着いたのは、押し入れの前。
「熱過ぎて俺や他の奴は中へ入れないんだ」
確かに、襖を隔てた押し入れの中から、熱気を感じました。僕は意識を集中させます。体温が下がっていきました。吐く息が15度になります。普通の家庭用のクーラーの僕は、一番低い温度で15度です。
「いいか、あっついから、開けて入ったらすぐに襖を閉めてくれよ」
カットさんの注意に頷いて、僕は襖を開けました。ぎゅっと目を瞑って、少し怖いけど中に入って襖を閉める。体が溶けるくらいの熱だったら、どうしよう。
「・・・・・・?」
びっくりするくらい優しくて、暖かい光の熱が僕を迎えました。ハロンが光っています。
「来てくれてありがとう、クー」
僕は、ハロンの放射する熱に触れていました。心地よくて、うっとりします。空気を冷やす僕とは違ってハロンは空気を暖めるのではありません。近づかないと、その熱に触れることはできないのです。初めて、僕はハロンの熱放射の範囲に入ったのでした。
「・・・ハロン、調子が悪いって聞きました」
僕が言うと、ハロンは頷きました。
「体がずっと熱くて、止まらないんだ。クー、冷やしてくれる?」
僕はこくこく、馬鹿みたいに頷くことしかできません。ハロンを冷やすなんて、夢のようです。想像していたよりも少ない熱量とは言え、ハロンは熱の塊のようなハロゲンヒーターです。僕の全身全霊を持って冷やさなければいけません。




何だ、これは。
横になる俺の腰を挟むようにしている、冷たい太もも。クーが俺に跨がって、息を吹きかけていた。可愛い。クーの息は、ひんやりとして気持ちがいい。
「ぁ・・・っ、ハロン、さっきよりも熱い・・・」
心配そうに瞳を揺らすクー。
「うわぎ、上着、脱いでください」
夢心地の俺。言われるまま、もぞもぞと上着を脱いだ。
「・・・っ」
露になった俺の肌に、ぴちゃ、とクーが冷たい舌を這わせた。これは俺の妄想か。否、妄想を凌駕している。鼻血が出そうになるのを耐えながら、目に焼きつけようとクーを凝視した。
「んっ・・・また・・・熱くなった・・・」
泣きそうなクー。俺の体温が上がるのは、言わずもがな可愛いクーのせいだ。
「・・・ハロン、ハロン・・・」
一向に下がらない、寧ろ上がり続ける俺の体温に、クーはぽろぽろと涙を流し始めてしまった。泣きながらも、息を吹きかけては舐めてを繰り返し、何とか俺を冷やそうと懸命になっている。可愛すぎる。
しかし、本気で心配してくれているクーに、俺は罪悪感を感じ始めていた。そろそろ言うべきだろう。俺は良い思いをし過ぎている。とりあえず、クーには離れてもらう必要がある。下がる体温も下がらない。
「クー、・・・?っ!」
「ハロン・・・ここ、すごくあつい・・・」
ひんやりとしたクーの手が、ズボンの上から股間に触れた。冷たい手が恐らく今、俺の体で一番熱をもっているであろう部分を撫でる。
「ふぇ・・・どうしよう・・・っ、はろん、しんじゃ・・・っ」
撫でられて更に熱をもってしまったらしく、クーはおろおろして泣きじゃくる。俺は上半身を起こした。
「クー、もういい・・・って、ぅぁっ」
信じられない。クーが俺の性器を取り出して、その小さな口に含んでいた。
「ちょ、ま、クー・・・はっ」
冷たいクーの口。ぬるりと唇と舌に扱きあげられる。
「・・・っ!」
クーがフェラをしているなんて。俺はすぐに限界を迎えた。欲望を吐き出す寸前に、俺は最後の理性でクーの口から抜き取って、自分の手のひらでそれを受けた。クーの唾液と吐き出した粘液で淫靡に光る俺の性器は、まだ熱をもっている。
「はろんのおちんちん、まだあついの・・・?」
ぷつん、と何かが切れた。




「ひぁ、ぁちゅぃの、はろん、ゃ、ゃぁぁ・・・っ」
ぱちゅぱちゅとお尻から音がしています。ハロンの固いおちんちんが出たり入ったり、凄く熱くて、気持ちいい。おちんちんを舐めた時、口に擦れて気持ちよかったけど、そんなのと比べ物になりません。僕はハロンと、多分、えっちというのをしています。好きな人とすると気持ちいいと聞いていましたが、本当みたいです。ハロンも気持ちよさそうに見えるのは、僕の目がおかしいからでしょうか。
「はぁっ、・・・クー、好きだ・・・っ」
ごりゅごりゅとおちんちんがお尻をえぐります。ハロンが僕を好きだと言ったように聞こえました。幻聴に違いない。僕は泣きじゃくって、腰を回しました。何も考えられません。ハロンの熱い肌が、僕の冷たい肌にくっついていました。
「は、ふゃぁぁ、ひぅ・・・っ」
僕のおちんちんがぴゅくぴゅくとねっとりした液体を出しました。腰がひくひくして、頭がぽーっとします。整った眉を歪めて、ハロンも僕のお腹の上に同じものをかけました。

「クー、好きだ・・・」
静かに、唇や頬にキスをされます。
「・・・すき?はろんが、ぼくを?」
「俺が、クーを」
じんわりと暖かい手のひらが、僕の頬を撫でました。ハロンの熱は、だんだん下がっていくようでした。僕も冷房機能を停止させます。
「ぼくも・・・っ、僕もハロンがすき」
ハロンはびっくりした顔。気まずそうに口を開きます。
「犯しておいてあれなんだが・・・、クーの恋人は黒いカーテンじゃないのか?」
黒いカーテン?クロさん?首を振った僕。ハロンはぎゅっと僕を抱き締めました。
「ぁ・・・ハロン、あったかい・・・」
ぽかぽかします。ハロンはうっとりする僕に、ずっと暖めたいと思っていた、と囁きました。



襖を出た僕たちを迎えたのは、呆れた顔の皆でした。口を開いたのは、カットさん。
「・・・お二人さん、今後は騒音禁止な」
僕は恥ずかしくて、ハロンの袖をぎゅっと掴みます。2人で皆に謝りました。


それから暫くして、身に覚えのない莫大な電気代のことでお母さんのお叱りを受けるご主人を見ました。僕はこっそり、ご主人にもごめんなさいと謝りました。

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