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肉と心



高貴な艶のある象牙色の地に、刺繍が施された振袖。数百色の黄や蒼の糸が緻密に、瑞々しく豊かな厚物の菊を描いていた。代々の呉服商人としての父が用意した、着物。長い髪を結われ、言われるままに鏡を見る。長い睫毛に縁取られた黒い瞳が見返していた。侍女がしきりに褒めそやす声を聞きながら、蔦谷綸(つたやいと)は再び、目を伏せた。
和裁士や染織士をはじめとした多くの職人を抱え、江戸時代に全盛を迎えた蔦谷の呉服屋。綸は蔦谷次男の一人娘である。



紫檀の座卓を挟み、綸は自分の許婚である青年を見つめていた。前髪の長いその青年は俯いており、表情は伺えない。容貌も、認められない。沈黙。青年はずっと口を閉ざしていた。
先方は乗り気だから心配はしなくて良いと聞いていた綸は、困惑していた。どうしても、そんな風には思えない。破談になっては困る。少女は父母の落胆する様を思った。
「昌人さん」
綸は青年の名を呼んだ。青年、漆原昌人(うるしばらまさと)が顔を上げる。そこで初めて彼の首が真赤になっていることに気づいた綸は驚き、そして安堵した。少し見える鼻と、思いのほか形のいい唇は勿論、その不潔とも言えるような長い前髪にさえ好感を覚えた。そして同時に、大切なことを秘密にしている罪の意識と、この人ならば自分を受け入れてくれるのではないかという希望が芽生えた。気の弱そうなその様子に、綸は、期待した。
しずしずと綸は昌人に近づく。隣に座した。昌人が自分の貝のように巻き上げた美しい黒髪を間近にし、感嘆したのを感じながら、上目遣いで窺った。直視できずに、視線を逸らす昌人に、綸の期待は膨れ上がった。口をつく。
「私は、蝸牛です」
かたつむり。言葉は、はっきりと淀みなく、綸の唇から発せられた。昌人の右手を取り、着物が乱れるのもいとわずに、菊の咲き乱れる中へと誘った。骨ばった指が、布越しに滑らかで柔らかな性器に触れる。掴んだ手首がびくりと緊張した。綸は怯む。不安が胸を満たした。やはり、よしておけばよかったのだろうか。受け入れてもらえるなどと、期待してしまった。告白は元より、今のこの状態ははしたないことこの上ない。汚らわしいものを、誰が触りたいものか。昌人はどう思っただろうか。今更に、羞恥で顔が熱い。綸は昌人の手首を離した。瞳がじわりと潤む。瞬きをしてしまったなら、すぐに涙が零れていただろう。ゆっくりと手を引いた昌人は綸から顔を背けている。綸はごめんなさいと言うしかなかった。目を瞑る。
「お断りしないでください。綸のだんなさまに、なってください・・・」
畳に指をつき頭を垂れる。でも、とどこかで思った。拒絶されるなら、早い方がいい。傷は最小限に抑えられる。

断るわけがない、と言う声を、聞き逃す筈がなかった。綸は顔を上げる。涙が頬を伝った。
「君の身体のことは、知っています。調べて、君を選んだのは、僕だから。・・・だけど、」
こんなに美しいとは思っていなかった、と昌人は言った。




自分の性器が他の女児のものとは異なっていることを、綸はずっと幼い頃から知っていた。初めてそれに気づき、自分は男なのではないかと泣きながら母に問うた時、母は綸を抱き締め髪を撫でた。
「綸、綸の友達には目の大きい子や鼻が大きい子、手が大きい子がいるでしょう?綸のおちんちんは、女の子皆にある小さいおちんちんが、ちょっと大きいだけなの」
お医者さまも綸は元気な女の子ですよって書いてくれてるわ、と棚を探し母子手帳を開く。


生まれてからずっと、折に触れて父方の実家に挨拶へ行っていた。綸は、祖父母や伯父、伯母に冷遇される。また、両親から離れている隙に、いとこ達から嫌がらせを受けることもある。綸は父方の実家へ行くのが、いつも怖かった。行きたくないと駄々をこねても、父母、特に母が綸に懇願するのだった。父にもなだめられ、母によって用意された振袖やワンピースを着て、運転手の待つ車に乗る。
どうして疎外されるのか、綸にはわからなかった。彼らは綸を蝸牛と呼んだ。伯父と伯母が綸に面と向かって言うことはなかったが、いとこ達が綸を蝸牛と呼ぶのは親の真似らしく、陰でどのように言われているのかは想像に易かった。

「蔦谷のお着物を一番美しく着こなすのは、私の子よ」
母は綸が着飾ると喜んだ。同じように挨拶に行く母方の実家は、綸に優しい。綸が女らしく振舞えば振舞うほど、彼らは綸を誉めそやしてくれた。少し大きな性器のことは、誰にも秘密にするようにという言いつけを、綸はしっかりと守る。


小学校の理科の授業で、生き物を観察する授業が始まった。綸は、一匹の蝸牛を選んだ。ぬるりとした身体と、固い殻、触るとひっこむ目。自分と同じだと思えるところなど一つもないと思った。

それなのに、ある時全てが繋がった。幼さゆえに言語化こそできなかったものの、賢い綸は蔑まれていた理由を理解し、納得してしまった。気味の悪さにうずくまる。

蝸牛が土と餌を入れた飼育瓶の中で、卵を産んでいた。




学校と自宅の往復する日々の中、週に2回、電車に10分揺られて昌人の住むマンションを訪ねる。縁談が決まった後、中学生の綸の生活は少し変わった。

初めて訪れた日の昌人は、ご両親から勉強を見てやってくれと言われているのだと家庭教師のように綸の学習の補助をした。紅茶を淹れ、数学と英語。ネイティブな発音に驚いた綸にも気づかないほど熱心だった。2時間過ごし、帰りは車で自宅まで送る。時々買い物や外食、博物館へ行ったり、映画を見るようなことをする。
積み重ねるのは時間と、他愛のない会話。昌人は綸に身体のことを聞かず、綸も昌人の顔について聞かなかった。昌人の淹れる紅茶は、いくつかの綸が好きな種類だけになり、綸の好みの甘さの、2袋分の砂糖が入った状態のものが渡されるようになっていた。


いらっしゃい、と迎えられ、昌人の部屋に入る。いつもは殺風景で何もない部屋に珍しく、本や書類が積まれていた。気になってちらちらと見ている綸に、昌人は紅茶を淹れながら言う。
「仕事の道具です。持ち帰るくらいなら職場で缶詰になる方が好きなんですけど仕方なく。・・・資料を外に持ち出すと、職場で思いがけず参照したいときに無いなんてことがあって困ります」
昌人の仕事。聞きたかったけれど、機会を逃してきていた。
「昌人さんは、どんなお仕事を?」
少しの間の後、昌人はケースからカードを1枚抜く。綸に、名刺を渡した。
「生き物の胚の研究をしています」
身体のことを知っていて選んだ、と昌人は言っていた。嬉しかった。あの時は確かに、嬉しかった。それなのに綸は今、あの時の言葉で悲しくなっている。なぜ知っているのか、なぜ選んだのか、心のどこかでずっと、聞くのが怖かった。
「理学部、生物学科、特認助教」
読み上げた綸の表情を見る。昌人は言った。
「綸は、本当に賢いね。記憶を手繰り、欠損している部分は想像して、関連付けて意味を見出だす」
目元が見えなくても、声色は雄弁だ。綸の思考を肯定する声。
「私の、身体が見たいですか?」
綸は問う。昌人は綸の手をとった。縁談の日以来、彼は初めて綸に触れた。
「はい、とても。・・・できれば、長期的に観察したいと思っています」




寝台に横になる。綸は手渡されたアイマスクを着けた。タイを抜かれ、セーラー服を脱がされていく。上半身があらわになったところで、パシャ、とカメラのシャッターを切る音がした。
大きな手が、肌とその下の組織を確かめるように胸を一通りなぞる。綸は身震いをした。何かを紙に書き付ける音の後、スカートに手がかけられる。ショーツもするりと脱がされた。見られていると思うと、綸の鼓動はとくとくと速く脈打つ。
「膝を立てて」
こくんと頷いて、足を動かす。わざと揃えた膝頭は、何の躊躇いもなく離された。昌人は、綸の抵抗に気づいてもいないようだった。
「・・・ぁ」
陰茎が摘ままれる。腹部に寝かせられた感覚。そのまま陰唇とも言える陰嚢に指がかかり、開かれる。潤いのある孔が、入り口を晒した。静かな室内に、くちゅ、と水音が響く。綸は、ベッドに頬を押し付けるようにして顔を反らした。シャッターを切る音。
「はぅ・・・?」
ねっとりとした冷たい液体が陰茎にかかった。くちゅくちゅと音を立てて、昌人の指がゆっくりと擦る。綸は腰を捩った。
「なに・・・?ゃだ、ゃ、ぃゃ、ぃゃなの・・・ぉちんち、しちゃ、ゃ・・・」
昌人の手首を掴む。唇の端からは涎が垂れた。
「ぁ、ぁ、らめ、らめぇ・・・っ!ぅゅ、ひぅん・・・」
射精する。息をつめて、初めての快感に耐えた。痙攣が止まらない。アイマスクの下で睫毛が濡れている。綸は、性器の先に冷たいガラスが触れているのを感じた。


性器が、お湯で絞ったタオルで優しく清められている。心地よくて、綸はついうとうととした。全身に倦怠感がある。不意に昌人が何かに気づいたのか、慌てたように綸の傍を離れた気配があった。
「・・・昌人さん?」
綸は上半身を起こす。もういいだろうかとアイマスクを外した。ひたと足裏をフローリングにつける。下半身が怠い。自分の身体の一部なのに、認めたくない不気味な部分を、見下ろした。無毛の恥部には、子どものような男性器と、潤う女性器がある。拭き残された液体をタオルで拭い、綸は椅子に集められていた衣類からショーツを抜いた。
「綸、汗を拭かないと身体が、」
別のタオルを持った昌人。綸はショーツを履く。ぱち、とゴムが肌を叩く音がやけに響いたような気がした。硬直している昌人を見上げる。耳まで真っ赤になっていた。どくん、と綸の鼓動が跳ねる。初めて会った日と同じ、あの気持ち。
「・・・ぅん、拭いて」
綸は昌人に近づく。昌人の喉仏がごくんと大きく上下したのを、見た。昌人が膝をつく。濡れた温かいタオルが綸の肌に触れた。じんわりと伝わる熱に、綸は目を細める。首から肩、脇、ぎこちない手つきで拭われていく。先まで自分の身体を弄くり回していた人物とは思えなかった。
「・・・っ、は、」
昌人の口から、小さく漏れる息。綸は、昌人の腹の下、ズボンが不自然に隆起していることに気づき、恥ずかしくて目を逸らした。

セーラー服を着る綸。リボンタイを結び、革のスクールバッグを肩にかける。
「送ります」
車の鍵を取った昌人は、いつもの昌人だった。




それから勉強とは別に、昌人の部屋で綸は裸体を晒し、写真に撮られるようになった。ペニスを刺激され、精液を採取される。膣の長さも計られているようだった。全てが終わると、アイマスクは付けたままで優しく身体を清められる。

「この部屋では、ホルモンの数値は計れない。染色体や、身体の内部もわからない。精密な検査を受けて欲しい」

綸は昌人の大学で血液検査と、約1時間に及ぶMRI検査を受けた。データをメモリースティックに移し、昌人は綸を連れて研究室に入る。
綸は室内の大量の書籍と昆虫の標本に目を奪われた。その中でも3匹の昆虫が並ぶ標本に目が留まる。見た目で雄雌がわかる2匹の個体の間には、長い角が1本だけの不思議な個体があった。
「クワガタです。左に雄、右に雌。そして、中央の個体は、雌雄モザイクと呼ばれる貴重な個体。雄と雌の特徴が混在しています」
綸は昌人を見る。昌人は、いいえ、と言った。綸の髪を撫でる。
「異を唱える学者もありますが、昆虫には性ホルモンはない、というのが定説です。細胞ごとに性別は決まっていると。だから、人間とはまた違うものです」
綸をソファーに座らせ、机上のノートパソコンにメモリを差した。
「・・・綸は、蝸牛でもありません。蝸牛は、雌雄の性腺をもつのが正常な個体の、雌雄同体というカテゴリです。雌雄モザイクよりも、君からは遠い」
「蝸牛じゃ、ないの・・・?」
昌人は笑う。
「人間ですから、蝸牛では有り得ません。君は、自分について知らないといけない」
性分化疾患、と昌人に言われても、綸はどんな顔をして良いのかわからなかった。
「生殖能力が、一般的な水準より劣ります。MRI画像やホルモンの量から見ても、卵巣はほぼ活動していません。とは言え、精巣も健康な男子の数値ではありません。精液中の精子も少ない」
それは、と言う。声が震えた。
「それは、私が男性だと言うことですか?」
昌人はパソコンの画面を見る。性ホルモンの分泌は生理周期によってばらつきがあるものとはいえ、中学生にしては小さすぎる卵巣に期待できるとは思えなかった。これでは、恐らく生理もきていないだろう。
「君のこれからの発達は、男性機能に偏ることが予想されます。現在155センチとほぼ中学生女児平均値の身長は伸び、身体には脂肪がつきにくくなるでしょう。胸などの女性的な部分は発達しません。女性ホルモンの投与は可能ですが、卵巣や胸部の発達を促すなど肉体を変質させるレベルの人為的介入は、寿命を短くする危険性や、」
ぎゅっと手を握られる。昌人は硬直した。
「綸・・・?」
潤む大きな瞳が、すぐ近くにある。いい匂いがした。
「男だと、許嫁じゃなくなりますか?」
昌人は体温が上がるのを感じた。平静を装い、言葉を捲し立てる。
「僕は、医師じゃない。だから、君に、未成年の君に触れるためには、対外的なご両親の許可が必要で、許嫁というのは、君のご両親が下さった僕に有利な契約に過ぎません。性別や見た目がどうあっても、君は、僕の許嫁です」
身体を寄せる綸。昌人の唇に、自分のそれを押しつけた。




ちぅ、と吸いついてから、離れる。綸は昌人の耳が真っ赤になっているのを確認した。身体の使い方も教えて欲しい、とねだる。

「・・・ぅ、ぅゅ、ぁ・・・はふぅ」
ふ、ふ、と息を吐いて、気持ち良さに身体をくねらせる。ちゅ、ちゅくと、性器が昌人の唇にねぶられていた。
「ぁっ、ひぁ、ぅ、くちゅくちゅ、しちゃ、ん、ン・・・っ」
口の中で優しく吸われ、舌にしごかれる。気持ちよさと恥ずかしさで変になりそうだった。ソファーに身体を押し付けるように、ぐっと背中に力を込める。綸はびくびくと腰を震わせた。
「ひあぁぁん・・・っ」
射精しながら、続く刺激に仰け反る。
「ゃ、ゃ、ぃやぁ・・・っぉちんち、こわれちゃ、ぁんン」
音を上げた綸。昌人はひくつくペニスから舌を離した。綸の潤む瞳が昌人を見る。蕩けて汁を垂らし、淫猥にひかる腟に指を這わせた。ふにふにと柔らかい陰唇、その中の、鮮やかに充血した粘膜は桃色に輝いている。
「・・・気持ち良かった?」
じっと見る昌人に、綸は小さく身じろぐ。
「いつもと色が全然違う」
ふるふると震える綸。昌人は粘膜の中へ指を差し入れた。

「ぁ、ひぁ、ぁ、ん、ン」
甘い嬌声が昌人の耳に心地好く響いた。にゅち、にゅぽ、くちくち、といやらしく性器が擦れる。昌人の性器の先端を中に埋め、少し摩擦しては抜くことを繰り返す。とろとろの浅い腟は、昌人を深くは受け入れられない。
「ふ、・・・?」
くちゅ、とアナルに指が入って、綸は悶えた。とろつく液体を纏わせた指が、1本、2本と肉を弛めていく。全部受け入れて欲しい、と吐息混じりに囁かれ、こくこくと頷いた。覆い被さるように綸を押し倒した昌人の前髪が、垂れる。
ばっちりと、目が合った。昌人は綸から退く。綺麗だった、と綸は思う。同時に、なぜ隠すのかを理解した。
「・・・すまない、送るよ。帰ろう」
酔いが覚めたとでも言うように、綸に服を着せ始める。




「母が、父の友人と不倫をして生んでしまったのが、僕なんだ。父は怒って、僕の左目を抉り取った、らしい。記憶はないのだけど」
目の前には教科書とノート、隣にはいつものように昌人が座っている。勉強に集中できないでいる綸を見て、昌人はさらりと言った。
「相手の男の目の色を、受け継いだ」
綸は、からの眼窩と、青い瞳を思う。
「・・・見たい」
綸は昌人を押し倒す勢いで体重をかけるが、あっさりと抱きとめられて、それはかなわなかった。
「見て、どうするんですか?」
昌人の腕の中でなおも体重をかけ続ける。
「全部受け入れてって、言ったくせに」
かあっと真っ赤になる首。
「私は全部見せてるのに」
観念したように、どうぞ、と昌人が前髪をあげた。
「・・・きれい。外国のひと?」
「アメリカ人だったようです。もう見るのも嫌で、カラーコンタクトをつける気にもなりません」
母はいつも泣いていました、と瞳を伏せる。
「・・・怖くない?」
左目を指す。綸は首を振った。
「怖くない」
ぎゅっと抱き締める。思い出しちゃった、と小さく呟いて、昌人に腰を押しつけた。真っ赤な耳を舐める。



「ぁ、ぁ・・・っ」
組み敷かれ、アナルの中に熱いものが入ってくる。
「ん、ぁ、ぁン、はひ、きもち・・・?」
とろとろと熱に浮かされたような綸の表情を見下ろす。頬を撫でた。
「ぁぁんっ!ひぅ、ひ、ぉちんち、ぃ、ん、ふ・・・」
うねる綸の中を堪能する。は、と息を吐いて、射精しないよう気をまぎらわす。
「ぁ、んん・・・ここ、ここも、さわって・・・」
切なげな瞳。綸の手が男性器を撫で、女性器を開く。どちらも、いやらしく濡れていた。
「は・・・っ全部、してあげます」
「ぅん・・・」
綸は昌人の左目を見る。嬉しいと、思った。

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