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過保護な黒い鳥



「はぁ、はぁ・・・」
身体がだるい。木の根本に腰を下ろす。磐井を暗殺したはいいが、磐井に雇われたらしい護衛の忍者の手裏剣が肩を掠めた。忍者の手裏剣には例に漏れず毒が塗られていた。経験上、この香りの毒は死に到るものではない。どうやらあの忍者は手負いの相手をなぶるのが好みのようだ。
「ここらで隠れたぞ!探せ!!」
怒号、松明の明かり。俺を探しに来た追っ手だった。おそらく手裏剣を投げた忍者もそこにいるのだろう。
「・・・なぶるならともかく、なぶられるのは趣味じゃない」
俺は印を結んだ。ぼふっと術が発動する。
「音がしたぞ!」
男の声が聞こえたが、俺は松明の明かりを空で見ていた。取り敢えず、どこか遠くへ。暫く、霞む意識の中ふらふらと飛行した。集落が見える。その隣の森の中、小さな泉の傍に降り立つ。
俺は一羽のしがない烏(からす)の姿で、意識を失った。



目を覚ましたとき、俺は家の中にいた。所々埃が溜まっており、手入れが行き届いていないものの、簡素ながらしっかりとした書院造りの一室。記憶に間違いがなければ、俺は泉の傍で目を閉じた筈だ。何者かの手によって移動させられたとしか考えられない。周りに意識を集中する。軽い足音がした。子どものようだ。襖を開けたのは、色褪せた水干を着た子ども。
「あ!」
少女のようにも少年のようにも見える可愛らしい容姿。だが、それよりも髪と瞳、そして肌の色に驚かされた。髪は茶色、瞳は淡い緑色、肌は美しい褐色をしている。烏の姿の俺の傍へ走り寄った子どもは、安心したように破顔した。
「・・・よかった。起きないかと思った・・・」
可憐な微笑みに引き込まれる。
「ごはん作ってきたけど、食べられるかな」
湯気のないお粥が差し出された。
「烏さんが何食べられるかわからなくて、おかゆ、冷ましたの・・・」
芋虫は簡単に見つからないし・・・と眉を下げる。他の烏は知らないが、基本的に、俺は何でも食べられる。鍋にくちばしを突き出すと、子どもは安心したように笑った。




子どもは少年だった。名前はゆらというらしい。世話になって二週間が経とうとしていた。熱と、身体のだるさが殆どなくなり、再び飛べるまでに回復した。ゆらは泉のほとりの一軒家に一人で暮らしている。食料は、自給自足。小さいが豊かな畑があり、毎日欠かさず世話をしている。ゆらを訪問する者はいない。ゆらはこの歳の子どもにしては静か過ぎる生活をしていた。だから、獣でも、生きたものが傍にいることにはしゃいでいる様子だった。自分のことをいろいろと話して聞かせてくれた。

「ゆらのお父さんはこの国の人じゃなくて、お母さんはこの国の人。ゆらの髪も目も肌も、お父さんのと同じ」
縁側に座って、優しい光を浴びて、ゆらは微笑む。その表情が、曇った。
「・・・あっちの村の人たちは、鬼っ子ってゆらを言うけど、ゆらは鬼じゃないよ。だから、だから、烏さんは、怖がって逃げたりしないでね」
言って、ゆらは瞳を潤ませた。
「ごめんなさい、烏さんも、元気になったら、かえりたいよね。ゆらが鬼かどうかなんてかんけ、なくて・・・。ゆら、ゆら、さみしくて、わがままいっちゃった・・・ごめ、なさ・・・」
美しい涙だった。矛盾と悲しみに心震わせたゆらの見せた弱さ。


眠りながら俺を抱きしめるゆらを起こさないように気をつけながらその細い腕から抜け出した。そろそろ、式紙で事前に帰ることを里に伝え、帰らなければならない。式紙作りに紙と筆を使うため、人型になる必要がある。最後だろうと、ゆらに正体を見せるのは得策とは言い難い。俺は、今まで数多の人間を暗殺してきた黒蓉(こくよう)。俺を匿ったことが、ゆらを苦しめる要素になるかもしれない。
印を組む。人型に戻って忍服を纏った。紙と筆を出し、式紙を作り、里へ飛ばした。
「烏さん、なの?」
ゆらの声。振り返らずに印を組み、烏を模した面を出す。里の者ではない一般人に顔を見せるのは禁じられている。面を被って、ゆらを見た。今にも泣き出しそうな顔。
「・・・そうです」
「行っちゃうの?」
「はい。里に帰らなければなりません。見ての通り、俺は忍者です」
ゆらは俺を見つめている。
「なんでもするから・・・っゆらも、ゆらも連れていって」
頬を一筋の涙が伝った。




里に着く。
「黒蓉、いつの間に子もちになったんだ」
仲間の第一声は好奇を隠さない、俺をからかう一言。
「可愛いでしょう。ゆらと言う名です。くれぐれも手出ししないよう」
集まっていた忍服の仲間達にゆらは怯えて、俺の服を掴んでいる。狐や兎、狸の面をした忍者達は、子どもには恐ろしいのかもしれない。
「そんなことより、こいつが本当に黒蓉か確かめなきゃなんねぇ。坤泥山で子どもの肉を喰らうのは何だ?」
狐の面、弧鐡(こてつ)が言った。里の人間だけの合言葉。不定期に変わるが、里の人間なら必ずわかる謡や噺を元にしている。
「姥」
「正解。お帰り、黒蓉。はじめまして、ゆらちゃん」
兎の面、孵月(ふづき)が手を伸ばす。びくっと、ゆらが肩を揺らした。
「あれ!?俺、兎さんなのに!」
「面を取りましょう。長身の男が兎の面を被っていても気味が悪いだけです」
「酷っ!!・・・顔を見せていいってことは、ゆらちゃん里に住まわせるってことか?」
「はい。式紙のやり取りで既に里長の許可を得ていますので」
「了解した」
ぽんと音を立てて面が煙に変わった。俺も烏の面を消す。目の前には、任務のために一ヶ月程ご無沙汰だった仲間達の顔がある。
「さらってきたのか?」
仏頂面で弧鐡が言った。
「ゆらは身寄りのない子です」



屋敷に入る。ゆらは居間までついてきたはいいものの、面を取った俺をじっと見つめて襖の前を動かない。
「?ゆら、こちらへ。・・・それとも、俺が怖い?」
問えば、真っ赤になってゆらは首を振った。向かい合うように座る。
「ゆらが俺に自分のことを話してくれたように、俺もゆらに話をしようと思います。いかがでしょう」
ゆらが頷く。




ゆらが助けた烏さんは、忍者で、名前が黒蓉。ゆらは、黒蓉さまにお世話になっている恩返しに、食事を用意したりしています。
「おー、いい匂いだな。ゆらちゃん」
夕飯を作っているゆらの後ろに立ったのは、黒蓉さまと同じで忍者の孵月さまでした。ドロンと煙のように現れることができる忍者は家の鍵も関係ありません。
「今日もご飯、お召し上がりになりますか?」
「お召し上がりって・・・黒蓉みたいな喋り方するなよー?ゆらちゃんの可愛い喋りがいいんだぜ?」
孵月さまの言葉にゆらは首を振りました。だって、ゆらは早く大人になる必要があるのです。黒蓉さまは優しいけど、きっと歳のわりに頭の悪いゆらに、心の中で呆れていると思うから。里の、ゆらと同じくらいの歳の子は、もっとしっかりしていて、大人びています。それに、ゆらを鬼と恐がらない里のみんなと、少しでも仲良くなりたいです。敬語や丁寧語などは大事だと、はじめてできた友達が教えてくれました。黒蓉さまは見本になります。
「ちょっと、味見しちゃお」
おみそ汁を少し飲んで、孵月さまは美味しいと言ってくれました。おでこにちゅっと唇をあてられます。
「?」
孵月さまを見上げます。
「黒蓉には内緒な。しかし今日はまた豪勢だな。黒蓉が任務から帰ってくる日だから?」
頷きます。今日は3日前に任務に出発した黒蓉さまが帰ってくる日なのです。

「ただ今帰りました」
玄関の方から黒蓉さまの声。ゆらは嬉しくて、走って玄関まで行きました。


「ゆら、なぜ孵月の分まで夕食があるのですか?」
見るからに不機嫌な黒蓉さま。ゆらはどうして黒蓉さまが不機嫌なのかわからなくて、おろおろします。黒蓉さまのお友達なのに、夕食を一緒に食べることはだめなのでしょうか。
「黒蓉がいない間毎晩美味しい手料理食べさせてもらってたからな、俺。なー、ゆらちゃん」
ゆらは頷きました。事実でした。黒蓉さまが瞳を見開きました。
「毎晩・・・?」
黒蓉さま、怒ってる。ゆらはばかだから、どうしてなのかわかりませんでした。




「ゆらに手、出してませんよね?」
黒蓉さまが言います。
「だしてない」
「ゆら、本当ですか?」
て?てって何のこと。だけど、黒蓉さまに嫌われたくなくて、ゆらは頷きました。黒蓉さまの表情が和らぎました。
「そうですか」
そう言った黒蓉さまは、いつもの黒蓉さまでした。


「黒蓉さまが無事で、ゆらは安心しました」
お風呂あがりのゆらの髪を黒蓉さまが拭いて、梳いてくださります。ゆらのぼさぼさしていた髪は最近では絡まることもありません。黒蓉さまと暮らして、変わっていく自分が、ゆらは好きです。少しでも黒蓉さまの傍にいるのにふさわしい姿になれたなら、ゆらは幸せです。黒蓉さまは凄く綺麗です。初めて素顔を見た日、ゆらはどきどきして襖を離れられませんでした。黒蓉さまの姿は、孵月さまに見せてもらった唐という国の絵の美女のようです。確か、楊貴妃と聞きました。
「ゆら、本当に、何もされませんでした?」
頷けば、黒蓉さまがゆらの頬に唇をあてました。孵月さまにおでこにされたときは、何も感じなかったのに、どきどきします。赤くなっていると、黒蓉さまはどうしましたと笑ってゆらを覗き込みました。
「黒蓉さまにされると、なんだか、変、です・・・」
「御両親にも?」
慈しむような優しい瞳。吸い込まれそうになりながら、ゆらは首を振りました。
「ふづきさ・・・」
不意に、孵月さまに内緒だと言われたことを思い出しました。口をつぐむと、黒蓉さまの表情が、厳しくなります。
「孵月?ゆら、孵月に接吻を許したのですか?」
「せっぷ・・・?」
唇をくっつけられたのですか?と問い直されて、ゆらは怖る怖る頷きました。
「では、ここは・・・?」
黒蓉さまが苦しそうに、ゆらの唇を指でなぞりました。ゆらは首を振ります。
「・・・唇は、一番大切な人にしか許してはいけません。いいですか?」
ゆらは頷きました。




ゆらの唇に、黒蓉さまの唇がくっついたら。

考えて、どきどきして、胸がきゅぅっとなりました。
「黒蓉さま・・・」
黒蓉さまにくっついて、ぎゅうっとすると、黒蓉さまは抱きしめてくれました。
「黒蓉さま、ゆらは黒蓉さまに、唇にせっぷんして、欲しいです・・・」
黒蓉さまがじっとゆらを見つめます。
「俺が言ったこと、わかって言っているのですか?」
黒蓉さまはゆらの大切な人。頷くと、黒蓉さまの顔が近づいて、唇が唇にくっつく。少し冷たい黒蓉さまの唇に、ゆらはうっとりしました。ちゅっと音をたてて離れた唇。もっと欲しくて、黒蓉さまを見つめました。
「目が潤んでますよ・・・?」
目元にちゅっと、唇。そこじゃ、なくて。
「くちびるに、くちびるにください・・・」
必死になってお願いすると、黒蓉さまはくすりと不敵に笑って、いいですよと言ってくれました。
「・・・ゆら、少し唇を開いて」
言われて、薄く唇を開く。
「・・・んぅ、ちゅ、く・・・ふ、はぁ・・・ん」
黒蓉さまの舌がくちゅくちゅ、中で擦れる。ゆらの八重歯も舐められて。腰が、へん。
「はふ、ぁ・・・」
つぅっと糸が引いて、唇が離れました。腰の辺りが熱くて、ゆらはもじもじします。
「おや、どうしました?」
「ふぁぁ・・・っ」
耳に黒蓉さまの息がかかってぞくぞくします。
「こくよ、さまぁ・・・」
体がびくびくしました。
「っ!」
黒蓉さまが、ゆらを見て目を反らしました。
「どれだけ、感じやすいんですか・・・」
「ごめ、なさ・・・」
黒蓉さまの呟きの意味はわかりませんでしたが、嫌われたくなくて謝りました。
「・・・いえ、ゆらは何も悪くないですよ。ただ、」
俺が我慢できなくなってしまったのは、ゆらのせいです。そう言って黒蓉さまは、ゆらの服の中に手を忍ばせました。




湯上がりでまだ少ししっとりとしたゆらの褐色の肌を撫でる。服をたくしあげて薄い胸を揉みながら、俺はゆらに接吻した。
「ん、ん、ちゅ、ちゅく、ふぁ、ぁ、は・・・ちゅ」
接吻に慣れないゆらが、一生懸命に息を吸う。堪らなくて股間が疼く。まだ幼いゆらに欲望を抱く自分に苦笑した。ゆらのような子どもを稚児と称して性の対象として側に置く者もいるが、自分には理解できないと思っていたのに。
「ぁ、ぁあん・・・」
ゆらに覆いかぶさる俺のふとももに、ゆらが腰を押しつけていた。
「はっ、なんて、いやらしい」
喉が渇く。幼い痴態に自分を制御できない。
「・・・俺はゆらが欲しい」



「きゃぁあんっ、あん、ぁあっ・・・」
ゆらを裸に剥いて、その肛門を弄る。小動物のように震えているゆら。
「気持ちいいんでしょう?」
快感に悶え、宙をかくゆらの足を噛む。そのまま舌を這わせて、震えている爪先を舐めた。
「はぅう、い、でしゅ・・・こくよぅ、さま・・・ゆら、しんじゃぅ・・・」
とろけた瞳にぐっと欲望が膨脹した。
「く、そっ」
びんびんに反った性器を取り出して、ゆらの蕾に宛がう。優しくしたいと思うのに、花を散らしたい暴力的な衝動に捕われる。挿入した。
「ひ、ぁあぁぁあっ!」
びくっびくっとゆらが跳ねる。ぴぴっと蜜を飛ばして痙攣している。
「ひ、はぁ、は・・・あちゅいの、なに・・・?」
潤んだ瞳で、ゆらは結合部を見た。
「俺も、ゆらの中で気持ちよくなりたい・・・」
腰を引くと、ゆらが鳴く。
「ぁふぅうっ・・・おちんち、きもちい・・・こくよ、さまも、きもち・・・?」
可愛くてならない。愛しさが、込み上げる。
「ゆら・・・っ」
激しく穿つ。ゆらを揺さぶった。




「あっ、あぁあん、ひ、はぁっ」
四つん這いのゆらを犯す。抜かずの三発の後、尚も硬度を保ち暴れる自分を、どこかで客観視している自分が、驚いている。性には淡泊だった、はず。
「ぁ、ぅ、で、りゅ、ふ、や、ゃぁあんっ!」
ゆらが痙攣する。俺の手の中でぴるぴると震えている小さな性器は、薄い水のようなものを垂らし続けている。
「ふ、ぁぁっ!もぅ、らめっらめぇ・・・きゃぅっ」
「嘘ばかり。イってもイっても足りないのでしょう?こんなにお尻を振って。初めてなのに、いやらしい」
お尻を揉んで、穴を貫く。
「ひんんっ、こくよぅしゃまぁ・・・っ」
ゆらの腸壁は俺をきゅんきゅんと締めつけた。



目が覚めた。布団の中で、ゆらを抱きしめている。ゆらは、俺を見つめていた。あの後、気を失ったゆらを湯浴みさせ、寝たのだ。初めてなのに無茶をさせた。
「おはようございます、ゆら。昨晩はすみませんでした。体は大丈夫ですか?」
ゆらは頷いてしがみ着いてくる。
「・・・ゆら?怒っていますか?」
言えば、少し顔を上げて俺を見るゆら。ふにっと、唇に柔らかい感触。
「っ・・・」
触れるだけの接吻の後、ゆらの舌が俺の唇を舐めた。
「黒蓉さま、黒蓉さまは、ゆらの大切な人です・・・」
赤くなっている俺を知ってか知らずか、ゆらはまたぎゅっと抱き着く。俺の胸に顔を押しつけて、小さな声で言う。
「ゆらも、黒蓉さまの大切な人ですか・・・?」
夜は、いっぱい、接吻してくださいましたと、顔を押しつけたまま言う。
「ゆら、顔を上げて。かわいいゆらを見せてください」
ゆらがこちらを見た。俺はゆらの唇をついばむ。
「ゆら、俺の大切な人・・・」
気持ちを抑えられずに、柔らかな唇を貪った。


「黒蓉さま、ご飯・・・」
食べられません、とゆらが俺の腕の中で体をよじる。たかがそれだけの仕種にむらむらしながら、俺は目の前の人物を睨みつけた。
「どうして来たんですか?孵月」
「え?ご飯を食べに・・・」
「帰れ」
ゆらとの楽しい食卓にこれほど不要な奴もいない。
「黒蓉さま・・・」
腕の中のゆらが不安げに俺を見上げている。孵月は俺よりも先にゆらに唇で触れたのだ。許せない。
「・・・え!?ゆらちゃん!?」
間抜けな孵月の声。ゆらの唇が俺の唇に触れていた。ちゅっと音を立てて、離れていく。
「ゆらの大切な人は、黒蓉さまだけです」
頬を染めながらも、きっぱりと言ったゆら。ああ、俺は何をかっかしていたのか。
「・・・愛してます、ゆら」

「俺、帰る」


それ以来、孵月は家に来なくなった。

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