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選ばれた生贄の話



ドアチャイムが鳴った。明瞭な音の立ち上がりの後、減衰しながら伸びるE5、そしてC5。柔らかな電子音に、世川咢(せがわがく)は誰だろうかとぼんやり考える。来客の予定はない。ネットショッピングもしないため、心当たりはなかった。モニターのあるインターフォンだったならと毎回思いはするものの、コイルと磁石が内蔵された電池不要の有能なドアチャイムを前に、思うだけで終わる。
咢は珈琲を注いだばかりのタンブラーをデスクに置いた。窓の外は雲が空を覆い、大粒の雨が降っている。玄関に向かった。

サンダルを履き、扉を開ける。ひんやりと湿った空気に雨が匂った。風はなく、軒下は雨を凌いでいる。青い大きな傘を差した訪問者は、小学生だろうか、子どもだった。傘の色が白い肌を薄青く染めている。幼く、中性的な容貌。見覚えのない顔だった。潤んだ大きな黒い瞳が咢を見る。
「せがわがくさんですか?」
澄んだ声だ。雨音の中、咢の鼓膜を震わせる。
「そうだけど、」
同伴者の姿を探して辺りを見回す。少年は傘を閉じ、ひとりで歩いて来たのだと言った。
「あなたのせいで、弾けなくなりました。責任を取ってください」
責任、と咢は少年の言葉を反芻する。
「警察を呼ぶべきかな」
少年は力なく首を振った。
「・・・取り敢えず話を聞こうか。中に入って」
咢は奇妙な訪問者を家に入れる。


少年の上着を脱がせ、ハンガーにかけた。ソファーに座らせる。お茶を淹れ、手渡した。少し離れた椅子に掛け、温度の下がってしまった珈琲を一口飲む。

少年は能美弥生(のうみやよい)と名乗った。年齢は10歳。ピアノを弾いていたが、弾けなくなったのだと言う。
「6月にリサイタルを予定していたのも、中止しました」
「・・・検索しても?」
ダメだと言われても検索しただろうが、尋ねてみる。お茶の入ったグラスを両手で持つ弥生が、頷いた。

スマートフォンで「のうみやよい」と検索する。「天使の音色」と陳腐な言葉がサジェストされたのを横目に、検索結果の先頭のリンクを開く。レコード会社のサイトが表示された。ピアニスト能美弥生は、事務所所属のアーティストらしい。表情こそ違うが、写真は目の前の少年に違いなかった。無垢な微笑みに、こんな風に笑うのか、と咢は思う。写真の下には、国際的なピアノコンクールでの受賞など華々しい来歴が掲載されていた。CDも発表し、その際には宣伝も兼ねて密着取材が全国放送されていたこともわかる。6月のリサイタルの中止とそれに伴うチケットの払い戻しの案内ページも確かに存在した。都内の1500人程のホールだ。嘘ではないのだろう。

咢は弥生を見る。スランプかイップスか。数多ある神童の挫折としては、ありふれているのではないかとすら思う。いつの間にか、表舞台から消えているのだ。人々の望む神で在り続けるのが、いかに難しいかを、咢は知っている。
責任など取りようもなかったが、少なからず、興味が湧いていた。時計を見る。予定の時間まで2時間ほどあった。言い掛かりを聞いてもいいと思っている自分に、心の中で笑う。




弥生のピアノの先生は、イタリア人の祖母だ。目立った経歴はないものの、コンセルヴァトーリオを卒業している。音楽とは関係のない職場に就職した後も、そして日本人の夫と結婚し子を産んで専業主婦になった後も、趣味としてピアノを続けていた。自宅には防音室と、木目外装のグランドピアノがあった。結婚する時に買ってもらったのだと嬉しそうに弥生に言う祖母の横で、結婚の条件だと言われたんだから買うしかないだろうと恥ずかしそうに祖父が笑った。

幼稚園で待つ弥生を、仕事で忙しい父と母の代わりに祖母が迎えに来てくれる。歩いて祖父母の住む家に帰り、母の迎えを待つ。祖母のピアノを聴いたり、ピアノで遊んだりした。当初は真剣に手解きをするつもりはなかった祖母だったが、呑み込みが早く、子どもながらに美しい音を奏でる弥生に教える楽しさを見出した。父母も息子の才能を無視することはできず、弥生は小学校への入学と同時に自宅の近くのピアノ教室へ通うことになった。教室のピアノの鍵盤の軽さに驚いた弥生は、最新の教則のもとぐんぐん成長した。

弥生にとってピアノは、自分を特別にしてくれる道具だった。幼稚園の発表会には来てくれなかった父がピアノの発表会に来てくれる。国内の予選を通過し、海外のコンクールに出ることが決まり、母だけでなく父も仕事を休んで同伴してくれることになった時の嬉しさを、弥生は忘れないだろう。その時は、旅行も兼ねた少し長めの日程になった。

10歳の誕生日に、スマートフォンを買ってもらった。あらゆる情報にアクセスすることができる端末は、弥生を虜にした。移動時間、授業の合間、暇さえあれば世界中の奏者のあらゆる音楽を聴いた。

弥生がピアノを弾けなくなったのは、ひとつの動画がきっかけだった。音楽について話をしている海外のスレッドの古いログで、名無しの投稿者が「Gaku Segawa」とだけコメントしていた。添付された音楽ファイルはピアノとドラムのセッションだった。いくつかの賞賛コメントと、このプレイヤーの他の音楽はないのかと問うコメントがついていたが、返事をするユーザーがないまま、話題は他の動画の投稿や、それらへのコメントに流されてしまっていた。
気に入って、弥生はデータを端末に保存して何度も聴いた。これはと思う特別な音楽を見つけた時、弥生は祖父母に聴かせる。祖母は、とても素敵な演奏と褒めた後、ドラムの音は聞こえないわ、と言った。祖父、父母、クラスメイトに聴かせても、答えは同じだった。ピアノのソロである、と。

ピアノに合わせて聴こえるドラムが、不思議な幻聴であると知ったとき、弥生の中で何かが変化した。以前のようには、ピアノが弾けなくなってしまった。

カウンセリングを受けた。録音で、生で、素晴らしい音楽を聴いた。業界の伝手で催眠療法も試みた。それでも思うように弾くことができずに、弥生は絶望した。




確かに、自分のピアノの音だった。父親に無理矢理出演させられたパーティーのものだ。ドビュッシーの月の光を弾くために練習をさせられていたが、当日、当時流行したロックナンバーをピアノにアレンジしたものを弾いた。父の呆気に取られた表情を思い出すと、今でも笑ってしまう。アンコールを受けて、月の光も結局弾いた。
一時停止ボタンを押す。弥生の端末から流れていた音楽が止まった。
「12歳の時の俺の演奏だ。俺にもドラムの音は聴こえない。・・・ドラムなんていなかったからね。君は、これを聴けば必ずドラムの音が聞こえるのか?」
弥生は頷く。鞄から木製の筆箱を出してテーブルに置いた。鼻歌を歌いながら鉛筆で叩く。
「8th note feel、器用だな」
咢が笑う。褒められて、弥生も破顔した。
「一緒に叩けないけど、低くて強い音も鳴ってるの」
咢を見る。優しい目と視線が絡んだ。弥生は思わず目を逸らしてしまった。咢の端末のアラームが鳴る。
「午後からライブがあるんだ。もう準備に取り掛からないと。悪いが、・・・ああ、・・・君も来る?」
大きな黒目をぱちりと開いた後、弥生は大きく頷いた。

髭を剃り、髪を整える。黒いシャツに着替えた咢は、道具を入れた鞄とジャケットを持った。弥生に声を掛ける。助手席に乗せ、雨の中、車を出した。カーナビのテレビニュースのボリュームを絞る。
「どうやって俺の家を知ったの?」
弥生は運転する咢の横顔を見つめた。肩程まで伸ばした黒髪をオールバックにした咢に、見惚れる。
「おばあちゃんが、あなたのお父さんを知っていました。有名なコンサートピアニストで、同じ市内だから、調べたらわかるかもって・・・知り合いのひとに聞いてくれました。あなたのお父さんとお母さんは飛行機の事故で亡くなられて、あなたはひとり、あのおうちに住んでる」
そうだ、と咢。付け加えておこうか、と言った。
「俺はもうピアノを弾いていない。父がいなくなってからはピアノも調律をしていない。俺と音楽の接点は、今や趣味で叩くドラムだけだ」


百貨店に寄り、俺が疎いだけだろうから、と咢は弥生にサングラスを買った。

駐車場から少し歩き、ライブハウスの裏口から事務所に入る。部屋には中年男性が一人いた。PCのモニターから顔を上げた男が、世川君、と立ち上がる。熊のように大きい。身長が高い咢よりも更に大きかった。首から吊り下げた名札には、兵頭(ひょうどう)と書かれている。
「もうそんな時間か」
壁の時計を見た後、こちらへ近づいてくる。咢は頭を下げた。
「今日もよろしくお願いします。無理を言ってすみません」
「とんでもない、こちらこそ。なるほど、この子だね」
弥生を見た兵頭に、咢は親戚の子であると紹介した。
「弥生です。目が光に弱いのでサングラスをしています。弥生、この方は兵頭さん。このライブハウスのオーナーだ」
兵頭が頷く。さらりと名前で呼びかけられて、弥生はどきりとした。
「ライブハウス見学へようこそ。現場はスタッフに任せて、俺はうろうろしてるだけだから暇なんだ。何でも聞いてくれたら答えるよ」
ありがとうございますと弥生が言う。兵頭は咢に向き直った。
「礼儀正しいいい子だ。10歳ならイヤーマフもつけなくていいだろう。小学生は大人同伴で21時まで。私が付き添うが、ラストまではいられないぞ」
「予定では20時ですが、自分の出番が終わったら弥生を連れて帰ります」
よし、と頷いた兵頭に、咢は頭を下げる。


​4

楽屋へ入って行った咢と別れて、弥生は兵頭とフロアへ向かった。リハーサルが行われるという。
「逆リハだから世川君はこのリハーサルの後、ほぼそのまま本番だ。ところで、弥生君も何か楽器を演奏しているのかい?」
兵頭に問われ、弥生は思わず首を横に振った。
「勿体ないな、何かやるといい」
世川君が身近にいることだし、と兵頭は言う。
「今日は、4つのバンドが演奏する予定だが、そのうち2つのバンドにドラマーがいない。世川君がサポートで入る。彼のどんなバンドでも溶け込む音作りはプロの仕事だよ」
明るく照らされたステージの上で、咢がドラムセットを調整している。
「技術が進んで、ドラムの音なんかはDTM、機械で作った音を流して演奏するバンドも増えてるんだが、やはり迫力に欠ける。その上、機械は演者のミスをフォローできない。フリーズしてしまったり、そのもののトラブルもまだまだ多いしな。うちのライブハウスはアマチュアのバンドの集客で成り立っているから、出演者にはいい演奏をしてもらい、彼らにはファンをたくさん作ってもらわねばならない。世川君のサポートはうちのオプションサービスの一つだ。希望する出演者には、あらかじめ俺から世川君にデモテープを渡して、ライブ当日サポートに入ってもらっている。ライブハウスのために、俺が世川君に頼み込んだ。ドラムがバンドの質を飛躍的に上げるんだ。世川君とのセッションで、何かを掴む者も多い。世川君の都合のつく日だけ、もちろん無料じゃないわけだが、世川君の厚意に甘えてかなり破格の値段設定になっている」
安売りさせちゃダメなんだろうがな、と兵頭は苦笑する。
「世川さんは、いつからドラムをしているんですか?」
「5歳くらいからだろう。このライブハウスは昔、ジャズバンドのライブをメインにやっていた。親父さんのステージを見に、お袋さんと時々来てたそうだ。その頃にはもうドラムを叩いていたらしい。それより前からピアノもやっていて、そっちじゃ神童なんて言われていた」
ステージ上の咢が獣の面をつけた。黒々とした毛と艶のある鼻先がリアルだ。顔の上半分を覆うタイプで、口元が見えている。
「お、もうすぐ始まるな」
「・・・犬?」
兵頭が声を上げて笑った。
「うちのライブハウスはブラックウルフ。あれは犬じゃなくて狼なんだが、まぁ、似たようなモンか。頼んで被ってもらっている。顔と身体が良すぎて目立つだろ?サポートなんだからそれじゃあ困る。世川君も本職に差し障るから、隠せた方が都合がいいみたいだしな」
ほんしょく?と聞いた弥生の声は、ギターの爆音にき消された。


助手席のシートに身体を沈めて、弥生は余韻に浸る。どきどきしていた。
「どうだった?」
よかったと、夢見心地で呟く。
「世川さんのドラム、もっと聞きたい」
ドラムだけじゃつまらないだろう、と苦笑した咢に、弥生は首を振る。

咢は弥生を自宅へ送った。弥生の家は咢の家から4キロもない場所にあったが、それでも歩けば1時間以上かかっただろう。弥生はシートベルトを外す。
「・・・また、世川さんの家に行ってもいいですか」
咢は少し考え、車を少し寄せてエンジンを切った。ダッシュボードから名刺ケースを取り出す。中身を確認して言った。
「今、お父さんかお母さんに会える?」
お母さんなら、と弥生。
「挨拶させてもらおうか」
次があるなら迎えに来るよ、と咢は言った。




弥生は祖父母の家に行くと言って家を出ていた。それが嘘であったと知った母は驚き、弾けなくてもいいのにと言って、弥生を抱きしめた。

ベッドに横になって、弥生は咢の名刺を眺める。私立永陵中学高等学校と書かれた名刺には、学校の住所と電話番号が印刷され、手書きの携帯番号が書き添えられていた。
「せがわ、がく・・・」
名刺をなぞる。せんせい、と呟いた。咢は数学の教師だという。副業について学校の許可は取っているものの、同僚や生徒には秘密にしていると言っていた。


日曜の、咢がドラムを叩く日に弥生は咢の家へ通うようになった。通うと言っても、咢が送り迎えをしてくれている。
咢の家には防音の部屋があり、ドラムセットやグランドピアノなど楽器の他、録音機材を置いていた。弥生は持ち込ませてもらった自前のビーズソファに身体を沈めて、咢の音を聴く。


「どうしてこんなによくしてくれるんですか?」
帰りの車内で弥生が問うた。
「よくしてる?」
咢は笑う。
「車を出す以外は、君がいなくてもしてただろうことをしてるだけだ。君は特別に何か要求することもない。そんなつもりはなかったが、知っての通り、君のご両親から謝礼もいただいてる。俺は何かの拍子に、君が弾けるようになるのを待つだけだ」
俯いてしまった弥生から視線を戻し、ウィンカーを出す。ハンドルを切った。
「君のCDを聴いた。天使の音色は伊達じゃない。あの音を意図せず失ったなら、取り戻したいと望むのは当然のことだ」
アクセルを踏む。弥生が首を横に振ったことには、気づかなかった。


咢のドラムの音に自分の身体が性的な感覚を引き起こしていると弥生が気づいたのは、3回目に咢の家に行った日のことだ。振動を鼓膜と肌でうっとりと堪能していた弥生は、勃起した自らの性器に驚き戸惑った。他者に見られると恥ずかしいもの、また父に皮の剥き方や洗い方を習った時の痛みの記憶と強く結びつくものでしかなかったそれに、弥生は初めて別の興味を持った。


「録音してもいいですか?」
ドラムのチューニングをする咢に、録音アプリを表示したスマートフォンを見せて、弥生が言う。
「いいけど、サンプリングしたものをあげようか?」
喜ぶ弥生のスマートフォンに、咢はデータを転送した。




夜、ベッドに横になった弥生は、端末にヘッドフォンを繋いだ。部屋の電気を消す。咢のドラムの音を聴いた。鼓膜が震え、脳に音が響く。ぞくぞくと身体が熱くなり、すぐに弥生の性器は勃起した。恐る恐る、パジャマの上から触れる。手で、優しく揉んでみた。小さく声が漏れ、慌てて唇を結ぶ。声を出さずに、息を吐いた。擦るように刺激する。気持ちが良くて、涙が出た。直接触ると、硬くなった肉の感触に酷く興奮した。指で輪っかを作って、上下させる。自然と腰が揺れた。息を殺す。精液は出なかったが、弥生は初めて絶頂した。

それから毎晩、快楽に耽っている。夜に焦がれながら、昼をやり過ごした。



ドラムスティックを置き、咢はペットボトルのキャップを外す。ミネラルウォーターを喉に流し込んだ。咢は弥生の傍へ歩く。くったりとソファに身を沈めている弥生を。見下ろした。まだ一曲しか叩いていなかったが、弥生に何が起こったのかを咢は凡そ理解している。とろけた瞳が咢を見ていた。
「音で気持ちよくなってた?」
咢はしゃがむ。直接身体を触るような動きはしていなかったため、確かめるように一曲叩いた。弥生はドラムの音に反応して数度、絶頂していた。弥生が頷く。
「ピアノが弾けなくなったって言うのは、嘘?」
首を振る弥生に、咢は、そう、と呟く。
「いずれにせよ、俺にとっても君にとっても良くない状況なのは、わかる?」
再び首を振った弥生が、わからない、と言った。
「君は、もうここに来るべきじゃない。・・・送るよ」
立ち上がろうとした咢の手を、弥生が掴む。
「狼のお面をつけたら、できる?」
咢は弥生の瞳を見つめた。咢の指を握る弥生の手は非力で、振り解くのは容易い。苦笑した。
「それ、どこまでわかって言ってる?」
小さな手を握り返して、大人げなく詰め寄る。弥生が身体を起こした。唇が触れ、咢は呆気に取られる。
「・・・世川さんも、わかってない」
悲痛な涙目は、いじけたように逸らされた。咢はソファに弥生を押し倒して、顎を取る。唇を奪った。



初めて入った咢の寝室で、弥生はダブルベッドに縫い付けられていた。清潔な、ぴんと張った少し冷たいシーツの上で、裸の弥生は身体を火照らせている。ちゅ、ちゅ、と頬や首に、咢がキスをした。
「弥生、口を開けて」
唇と舌を受け入れる。角度を変えて、何度も絡ませた。初めての感覚に、弥生は脳が溶けるようだと思う。堪能し、唇を離した咢は、弥生の自分を呼ぶ声に笑った。
「咢でいい。名前で呼んで」
弥生の指を舐めた。唾液を纏わせ、吸う。弥生は、震える声で咢を呼んだ。
「・・・音がなくて起つんだな」
ぷくりと腫れた性器に触れる。大きな手に包まれて、弥生は甘い吐息を漏らした。
「可愛い。食べてしまおうか」
言うが早いか、咢は弥生の性器を口に含む。小さな肉を口の中で優しく吸いながら、たっぷりの唾液と舌で擦った。弥生は声も出せずに絶頂する。咢の口内で性器をぴくぴくと痙攣させ、なまめかしく腰を揺らして性感を貪った。




弥生は、憑き物が落ちたように再びピアノが弾けるようになった。レッスンに忙しく、自由な時間がない中で、咢の家を尋ね続けている。弥生が弾くかもしれないと咢は自宅のピアノを調律したが、すぐにその必要はなかったと知った。咢の家で、弥生は殆ど寝室にいる。
「ぁ、ぁ・・・っ、ふ、ぁ」
ねっとりと乳首を舐められ、ローションが掛けられた性器を大きな手で優しく揉まれる。弥生は瞳を潤ませて、すすり泣き、喘ぐことしかできない。
「ぁ、ひ、んん・・・がく、がくぅ・・・」
くちゅぷちゅとローションを鳴らす咢が笑う。
「我慢しなくていい」
「しょれ、ゃぁ、ゃ、きゃ、ぁぁぁっ」
腰を揺らして、絶頂する。ぴくぴくと震える咢の手の中の弥生の性器は、まだ射精を知らない。ローションを手で払い、咢は体勢を変えて性器を口に含んだ。じゅる、としゃぶられて、弥生は甘ったるい声を挙げまた絶頂した。咢は口の中でくったりと柔らかくなった性器を、再び刺激する。簡単に硬くなったそれに気を良くして、舌と唇で扱いた。
「ゃら、ゃ、ちんち、またぁ、ぃっちゃ、いっちゃ、の・・・っひゃぁぁっ」
小さな可愛い悲鳴を上げて、弥生はシーツを握り込む。腰を揺らした。
「は、ぁ、ぁ、ひ、ひぁぁ・・・がくぅ・・・ぁ、ぁ・・・ぁ・・・」
また、柔らかくなった。咢は弥生の性器を解放する。
「・・・弥生に入りたい」
弥生の痴態と声、そして口の中にあったいやらしい肉の感覚に、咢も興奮していた。シャツを脱ぐ。理想の音のため鍛えているという逞しい身体に、弥生はいつも目を奪われる。咢は弥生を後ろから抱き込むように寝そべり、ローションに濡れる弥生のアナルに指を掛けた。ちゅくちゅ、と指先に柔らかく吸いつく感覚を楽む。
「ゃぁぁ、ゅび、ゃだぁ・・・もぅ、おちんちん、いれて・・・」
解さないと、と可愛いおねだりを制して指を入れた。簡単に咢の指を3本受け入れて、また小さなペニスを勃起させている。絶倫だなと耳に囁くが、弥生はまた気持ちよさそうに泣いていて、それどころではないらしい。性器の裏、前立腺を押す。刺激を繰り返すと、弥生はまた絶頂した。性器には触れず、自分で乳首を擦って、つま先を伸ばしている。
「エロすぎ・・・」
弥生の尻を掴む。とろけたアナルに勃起した性器を挿し入れた。
「ぁぁ、ぁ、ちんち、はぁん・・・」
気持ちよさそうに目を細めた弥生が、快楽を味わうように腰を揺らす。咢は舌なめずりをした。抱き込んで、弥生の求めるリズムを探りながら、腰を打つ。


弥生が咢のドラムの音に性的な興奮を催すことはなくなった。どうしてだろうと不思議がる弥生に、繊細な音楽の感覚が性の目覚めに異常反応していたのが、正常に戻ったのだろうと咢は見解を述べた。
「僕、二次性徴もまだなのに?」
弥生の口から出た言葉に感心しながら、咢は笑う。
「それでも、目覚めたのは確かだ」
白く細い指に口づけた。弥生の生み出す甘美な音を思い、咢は自然に恭しい仕種をとる。
「・・・咢が、起こしたの」
あの日と同じ、潤んだ大きな黒い瞳が自分を見ていた。僥倖だ、と思う。捧げることの喜びを、咢はよく知っていた。
 

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