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闇夜にピアス



女の子の格好をすると、デザイナーのお父さんは喜んでくれました。2日前にお父さんは死にました。僕は褒めてくれる人がいなくなった今も、女の子の服を着ることが好きです。自分でも、理由はわかりません。

でも、今日で終わりにしようと思います。変だってことは、知っているから。お母さんなんかは、僕が女の子の格好をすることをよく思っていません。

学校から帰った僕は、お母さんがいるから、いつも通りに普通の子どもです。夜になって、看護婦のお母さんが夜勤に出たのを見計らって、僕はクローゼットへ向かいました。お母さんは僕が女の子の格好をするのは嫌だけど、お父さんがデザインしたものだからと家には不必要な女の子ものの洋服を大切に仕舞っています。

まず裸になって下着から全部女の子のものに変えました。最後の日だから、特別におめかししようと思いました。クローゼットから、光沢のある薄いピンクの紐ショーツと、ベビードールを取り出して身につけます。服は、お父さんが最後にデザインした洋服のふりふりの黒いドレスにしました。膝を覆う靴下をはきます。ゴシックアンドロリータの格好です。僕は、スカートを膨らませるパニエもしっかりと身につけました。最後に、自毛と同じくらい黒いロングのかつらをかぶりました。

鏡に映っているのは、女の子。

クローゼットから革の靴を出して、窓の外を見ます。とりあえずは晴れているようでしたが、万が一のためにレースのついた小さい蝙蝠傘を手に持ちました。

そう、僕は今日、女の子の格好で初めて家の外に出るつもりです。




久しぶりに大学に行けば、クラブで一杯やらないかと高校時代からの顔なじみ達が言うので付き合った。女の話に始まり、これからのこと。就職するのか、はたまた更に進学するのか。俺が進学と言うと驚いた顔をする。
「大学院かよ・・・頭いい奴だと一目おいてたけど・・・まさかだ」
「そうそう、高校の時なんか舌にピアス開けてたじゃねぇの!」
まだ開いてると舌を見せた。穴が塞がらないように特殊なゴムを入れている。
「今ある?ピアス」
頷いて、全ての穴に銀のリングのピアスをはめた。
「懐かしい。似合うんだよなー。他校の奴らもお前には一目おいてたし」
外人の血ぃ交じってんだったよなと今更のように言うので苦笑した。アメリカ人の祖母をもつ俺は、色白で多少彫りが深い。髪は生粋の日本人である父の黒髪をもらったが。
「舌にピアスって滑舌悪くならねぇ?」
とりあえず俺は大丈夫だなと笑って、酒を注文する。
「俺のことなんかどうでもいいだろ?」
3時間程ごろついてから、騒々しいクラブを後にした。


帰り道、向かいに男と少女というこの時間ならまず犯罪的な色事の臭いをさせる二人組に目が止まった。人通りのない道で、二人はよく目立つ。男は変哲もない中年だが、少女は一風変わっていた。黒いドレスという格好もだが、ぬけるように白い肌と黒めがちな瞳。人形のようだ。怪しいから絶対に関わりたくない。やはり援交だろうかと思いながら、擦れ違おうとした瞬間、少女の涙目が俺を見た。
「あんた、何してんの?」
気づいたら、関わっていた。少女の肩を抱いた俺に、中年は逃げるように去って行った。




なるべく人通りの無いところを歩こうなんて、今更恥ずかしがった罰だったのか、知らないおじさんが僕に声をかけてきました。怖い。
「こんな時間に君みたいな可愛い未成年が歩いてるのって、やっぱり」
やっぱりってなんだろう。頭の奥で、警報がけたたましく鳴っています。後ずさると、おじさんは一歩前に出ました。
「ねぇ、いくら?いくら?君はいくらなら買えるのかな?」
怖い怖い怖い。僕を買うって何。
「僕は、売り物じゃありません・・・」
「ボク!」
おじさんが反応しました。あっと思ったけど、おじさんは僕が男だと気づいたわけではないみたいでした。
「いいとこに連れていってあげるよ?」
首を振ります。背中に気配を感じて、振り向くと若いお兄さんが擦れ違うところでした。目が合いました。声を出したいのに、出ません。何を言えばいいのかも、わからないのです。
「あんた、何してんの?」
肩に触れた手。逃げるおじさん。僕は助かったみたいでした。安心して道に膝をつきそうになった僕をお兄さんが支えてくれます。
「ぁ・・・ありがとうございます・・・」
「子どもがうろつく時間じゃない。早く帰りな」
綺麗な人です。舌に刺さる、いくつもの銀色のリング。
「家まで送った方がいいのか?」
親切な提案です。でも、もしお兄さんが悪い人だったら?と頭の中で誰かが言いました。家はまだ近いし、親が家で寝ていることにすれば、大丈夫ともう一人が言います。

さっきのおじさんがどこにいるかわからない恐怖が強くて、僕はお兄さんにお願いすることにしました。




可憐な少女は、黙ったまま俺の隣を歩いている。不意に足音が止まって、俺は少女を見た。
「どうした?」
少女は俺を見上げて、困ったように俯いた。
「足が・・・」

傍のフレンチレストランの屋根のあるテラスに連れていく。椅子に座らせて靴を脱がせた。黒い靴下の下で、踵に靴ずれしたらしい。踵に触ると少女は顔を歪めた。膝の上に乗せて掴んでいる蝙蝠傘に、ぎゅっと力がこもる。スカートが少し捲くれ上がっているが、少女は気づいていないのか気にするそぶりをみせない。暗闇に浮かぶ白い足。綺麗な形の膝。小ぶりな足に再び靴をはかせた。
「背負われるのと横抱きされるのと、どっちがいい?」
一瞬の逡巡の後、少女は横抱きと言う。恥ずかしそうに俺の首に腕を回す少女の、甘い香りが鼻をくすぐった。
「あとどれくらい?」
少女がもう少しと言った刹那、土砂降りの雨が降り出した。雷まで鳴っている。俺にしがみついた柔らかい身体。

家に着いて、玄関の前。俺は地面に少女を降ろして帰ろうとした。くんと引かれた袖。
「ゃ・・・まって!」
そばにいてくださいと、少女は言う。




ぴかっと窓の外が閃光にきらめいて、後に続いた唸って怒鳴るような音。僕の身体は恐怖に打ち震えました。親切なお兄さんは僕の手を握り返してくれています。雷の音が一時的に止んで、お風呂にお湯を溜める音が聞こえました。
「君の親は?」
僕はもう、お兄さんに頼るしかありませんでした。お父さんは死んでしまっていないこと、看護婦のお母さんは今晩は夜勤で、そのまま病院に勤務するので明日の夕方まで帰らないこと。

僕はお兄さんに、泊まっていってくださいとお願いしました。今さっき会ったばかりの人間を家に入れ、泊まっていってくれと言うことが常識外れだとはわかります。
「それは・・・。君も女の子だし、そういうのは」
いくら何でも控えた方がいいと、真面目な顔でお兄さんは言いました。僕はすぐにかつらを取ります。
「僕、男だから・・・だから、おねがい」
驚いたお兄さん。
ぴかっ、ごろごろ―――
「やあぁっ!」
また雷が鳴って、僕はお兄さんに抱きつきました。お兄さんはゆっくり背中をさすってくれています。

「そろそろ、お湯を止めないと」
お兄さんは離れたくないと我が儘を言う僕を軽々とだっこすると、バスルームへ移動しました。




少女は実は少年で、俺に泊まって欲しいと言う。
「ぁ、の」
「ん?」
「一緒に、お風呂に入ってもいいですか?」
抱っこしている少年が蚊の鳴くような声で言った。少年は雷が怖い。風呂までかよ・・・と呆れた後「男なら」でお馴染みのフレーズで少年の怖がりを批難しようとして、止めた。中性的な男らしくない少年に、その言葉を与えるのは不釣り合いな気がした。かつらを取って、自前のショートヘアを俺に見せてくれたが、ほとんどボブとも言える髪型。可愛らしい容姿の少年は、いまだにふりふりのドレスが似合ったままだ。
「おねが・・・かみなり、こわぃ・・・」
あまりにかわいそうなので、仕方なく許可してやる。

「おま、ちょ」
待て!と叫んでしまった。少年はドレスを脱ごうとしていた。白い肩があられもなく曝されようとしていた。俺は可愛い少年の裸を見るのが嫌だった。男でもいけると思ってしまうに違いないからだ。少年の身体はきっと最高の技師に造られたのかと思うほど、美しいに違いない。俺の、欲情を誘うに違いないのだ。
「服を着たまま・・・?」
変なことを要求しているが、これは自分が過ちを犯さないため。頭の中で繰り返しながら、少年の言葉に頷いてやると、少年はスカートの中の膨らんだ白いパンツのようなものと、黒く長い靴下だけを脱いだ。




僕はシャンプーで頭を洗いながらも、ちらちらとお兄さんの存在を確認しました。雷はまだ鳴っていて、きっとこの瞬間、お兄さんが消えてしまったら、僕はきっとうずくまって動けなくなります。

雷は怖い。お父さんが死んだ日も、激しい雷でした。警察の人は、お父さんは雷が落ちて死んだのだと言いました。人間に雷が落ちることもあるのです。


頭を洗い終わりました。身体を温めるようにと、先に僕を湯舟に浸からせたお兄さんは頭も身体も洗い終えています。僕はタオルを一枚腰に巻いただけのお兄さんを伺いました。
「身体、どうやって洗えば・・・」
僕はお兄さんに従って、お風呂では異例の服を来たままの姿でした。べったりと服が肌にくっついています。
「一日くらい洗わなくたっていいだろ」
お兄さんが言います。僕が浴槽に入ったと同時に、今までにないくらい大きな雷が落ちました。僕はお兄さんに抱き着いて、ぶるぶる震えました。お兄さんは抱きしめてくれます。
「大丈夫だ・・・」
耳元に優しい声。腰がびくんとしました。僕は直感のようなものにつき動かされて、お兄さんの唇に自分の唇を合わせました。唇を離すと、目を見開いているお兄さんがいました。
「・・・誘っているのか?」
僕が首を傾げた次の瞬間、お兄さんの唇が乱暴に僕の唇にくっついていました。ねろりと入って来た固い輪のついた熱い柔らかなもの。ピアスのついたお兄さんの舌。
「ん、ふ・・・ちゅ、んぅ、ぁ、はふっ・・・」
厚い舌で口がいっぱいになります。舌をくちゅくちゅと擦られると気持ちよくて、腰がびくびくしました。




結局、駄目だったなと頭の中で冷静な俺が呆れて言った。少年の小さな唇を貪る。たくさんのピアスがついた舌で、少年の口の中を蹂躙する。
「ん、んふ・・・ちゅくちゅ・・・ふぁ」
少年は俺の腹筋に固くなった性器を擦りつけていた。ぞくぞくする。服を脱がせようと、ドレスを裂くように落とす。あの白い肩が現れる。俺は再び目を見開いた。ピンクの下着。男と言ったのは嘘だったのかと疑問が過ぎり、腰に溜まった上半身のドレスはそのままに、スカートをめくり上げた。ピンクの紐ショーツの中で、少年の性器が息づいていた。いやらしく倒錯的な光景に俺の性器は膨脹した。
「・・・なぁ、本当は売りしてたのか?」
少年を浴槽に押しつけて、片手を膝裏に置いて股を開かせ、別の手でショーツの上から性器を揉んだ。
「んふ、ぁ、ぁ・・・ぅり・・・?」
「こういうことしてお金貰うこと」
小さな性器を激しく揉んだ。
「あ、あ、あ、あっ、ん・・・おちんちん、へん、あちゅいの、あちゅぃ・・・やっ、ひぁあーっ」
少年がぴくんぴくんと痙攣して射精する。俺はショーツをずらして、少年のお尻に指を這わせた。
「ふぇ・・・おしり、どぅするの・・・?」
射精の余韻に震え、展開についてこられないでいる少年に、俺は再びキスをした。




お兄さんの舌が僕の耳を舐めます。水に濡れて重たくなった黒いドレスは放られて、僕はベビードールだけ着ています。お湯はまだ温かくて、お兄さんの唇と舌と手は気持ちよくて、僕はお兄さんに身を任せます。さっきからお尻をいじられていて、お尻の中にお湯を感じます。
「そろそろいいかな」
お兄さんの舌が僕の耳から離れて、囁きました。
「痛いかも知れないけど、我慢して・・・」
お湯の中で、お尻の穴に熱いものがつけられました。ゆっくりゆっくり入って来ます。
「痛、ゃぁ・・・やめて・・・」
ショーツの中で大きくなっていたおちんちんも、小さくなりました。お兄さんにしがみついて、痛みをやり過ごします。
「らめ、むりぃ、も、はいんなぃ・・・」
ぐずぐずと涙ぐんだとき、動きが止まりました。
「は・・・っ」
お兄さんが上を向きました。首を水滴が伝って、なんだか凄くいやらしいです。僕は股を見ました。お兄さんのおちんちんがお尻の穴に入っています。


「あっ、あん、ひぁあっ」
お兄さんが動くたびに、痛かったのが嘘のようにお尻が気持ちよくなります。自分でおちんちんを扱いて、ショーツの中でお汁を出します。
「ぁ、あ、やらぁ、はぅう、いくぅっ、また、いっちゃぅ・・・ひゃぁんっ」
ずっずっとお兄さんが腰を動かして、僕のお尻におちんちんを擦りつけます。


10

ベビードールも、いやらしい紐ショーツも脱がせる。温くなったお湯の中で少年を貪った。バスルームには可愛らしい嬌声が響いて、俺を楽しませる。
「乳首、立ってる」
少し上向いた桃色の肉芽。ボディソープを掌に取って胸全体をを揉むようにマッサージする。
「ん、ぅ・・・ぁ、ぁ、ん・・・」
うっすらと開けられた瞼に覗く瞳はぼんやりと愉悦を示していた。震える人差し指を唇に優しく挟んでいる仕種は酷く悩ましい。俺の雄を駆り立てる。固い乳首を摘んで引っ張った。
「ぁ、ぁ、ひにゃぁっ」
びくびく震える。ボディソープのぬめりを借りて、指先で丁寧に愛撫した。押し潰すようにこねる。
「ふく、ぅ・・・ぁ、ひぁ、ぁぁあん」
はくはくと息づいて、くくんと引き攣る。射精せずに絶頂を迎えたらしく、少年の身体から一気にくたりと力が抜けた。


疲れてうとうとする少年を横抱きで部屋まで連れていく。ベッドに寝かせる。部屋を去ろうとすると、少年は俺を呼び止めた。
「ぁ、なまえ、教えてくださぃ」
匯(めぐる)と教えてやる。苗字は名乗らない。俺は少年を犯したのだ。名も知らずに。
「・・・君の名は?」
罪悪感。実際にこれは罪悪以外の何物でもない。
「ゆいと」
古瀬惟人(こせゆいと)と少年は言う。
「じゃあな、惟人」
おやすみ。俺は自分の手掛かりを全て消して、家を出た。

雷も雨も、止んでいた。
11

僕は、匯さんと過ごした夜のことを誰にも話していません。

「ん、ぁ、めぐるさん・・・ぁ、ン、ひゃぁ・・・」
匯さんを思いながらしないと、ひとりでいけません。白濁に手を濡らしながら、僕は満たされない心を持て余します。


「惟人、聞いてる?」
幼なじみの香織ちゃんが僕の顔を覗き込みました。ぼんやりしていたので聞いていなかった僕。謝ると最近いつも上の空だと指摘されました。
「だからぁ、最近あのフレンチのレストランに営業も終わった夜中、カッコイイ人がいるって噂!」
よく見ないとねわからないんだけど、その人、舌にピアス入れてるんだってと香織ちゃんが言う。


二度と着ないと決めていた洋服を着て、僕はあの日のように家を抜け出しました。そして、夜中のレストランのあのテラスで匯さんを見つけました。
「その格好・・・。また、男に声をかけられるだろう?・・・惟人・・・」
ぎゅうっと抱きしめられて、僕は震えました。匯さんの匂い。夢じゃない。
「会いたかった」
ずっと聞きたかった声。僕もと言うと、キスされました。
「・・・ちゅ、ふ・・・っ」
ピアスのある舌。
「ん、は・・・めぐるさん・・・お願ぃ、そばにいて・・・」
匯さんは俺でよければとゆっくり微笑みました。

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