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静止画と愛



オリエンタルな美貌の青年がむくりとベッドから起き上がる。彼の隣で素肌を寄せて眠っていた日景千理(ひかげせんり)は離れた温もりにうっすらと目を覚ました。
「こーま・・・?」
まだまどろみの中にいる柔らかな声で呼ぶ。ぼんやりと視界に映るボクサーパンツ姿の只見昂眞(ただみこうま)は灰色のジーンズを穿いていた。
「どこいくの・・・?」
目を擦りながら、千理が聞く。
「暗室」
千理の少しパーマがかった黒髪を梳くように撫でて、昂眞はカメラを片手に奥の部屋へ行ってしまった。
「しゃしん・・・」
昂眞の綺麗な写真を思い浮かべて、千理は安らぎを覚える。しかし何かがひっかかった。
「・・・ぁっ」
千理は瞬く間に頬を染めて、パンツを穿くと暗室へ向かった。
「昂眞っ」
暗室には鍵がかかっていた。現像処理中は千理を入れないつもりらしい。涙ぐむ。
「だめ・・・げんぞうしちゃ、ぃや・・・」
ぺたりと扉の前に足を崩して座り込む。

昂眞が暗室に持って入ったカメラは、昨晩昂眞が千理を撮影したものだ。快楽にとろけ無抵抗な千理の官能的な姿を、学生ながらもいくつかのプロ顔負けの賞をもつ昂眞が一枚一枚丁寧に収めた。昨晩が初めてではなく、昂眞は今までの千理の写真も暗室に保管している。
「こぅまの、へんたぃ・・・」
くすんと、千理は鼻を小さく鳴らした。




「只見、来月応募締め切りの写真、撮れたのか?」
「いえ、まだ」
出さなくてもいいですかと昂眞が聞くと、顧問は渋い顔をした。
「校長先生も君に期待しているし」
昂眞はカメラの手入れを続けた。


只見昂眞の写真は、耽美派や浪漫派、文学のそれと重ねられることが多い。昂眞が現実を切り取るとそれは何とも言えない情緒を孕むのだと、あるジャーナリストは言った。また、別の写真家は彼の写真からは作為を全く感じないと驚きと感動をもって称賛した。
カメラ屋で自分について他人が語っている雑誌をめくり、昂眞は呟いた。
「俺は、ただ綺麗なものを撮ってるだけなのにな」
苦笑する。昂眞にとって写真を撮ることは間違いなく楽しみの一つであり、それが飯の種になるなら至上の幸せだと思う。だが別段、他人に認められることに喜びは感じなかった。自分の見つけた美しいものに良くも悪くも他人の評価などいらないとも思う。
「他人からの評価は、良いに越したことはない・・・か」
過労で死んだ母親の口癖は、空気に溶けるように消えた。


「昂眞・・・」
昂眞はソファに座る千理を抱きしめた。甘い肌に、唇を寄せた。
昂眞は千理を可愛いと思う。告白された時は、ただ愛おしかった。付き合ううちに、可愛さの中の美しさを知った。変わる表情。美しい瞳は昂眞に陶酔しきっていた。昂眞は自分に向けられた千理の全てを、愛さずにはいられない。




横抱きに千理を運んで、ベッドにとさりと落とす。
「こぅま・・・ん」
ちゅくちゅくと唇を吸い合う。昂眞は千理の服をするすると脱がせていく。巧みな愛撫に千理はすぐに息を上げた。真っ赤に勃起した乳首をこねられて、腰をぴくぴくと震わせた。
「ぁ、ぁ、ふ・・・ぁっ」
昂眞が、千理のアナルのふちに触れた。ローションをかけられ、指がゆっくり突き刺される。
「ん、く・・・ぃ、ぁあっ」
ぴんと性器が反り返った。昂眞は中で指を折って、アナルを刺激した。
「ひぁぁあぁあぁあっ!やぁ、や、らめっ、それ、や・・・」
昂眞にしがみつく。
「・・・気持ちいいんだろ?」
千理はこくんと頷いた。どうしてと昂眞が目で問う。
「すぐいっちゃぅから・・・。僕、こうまと、一緒にいきたぃ・・・」
ゆっくりと足を広げて、くぱぁとローションでてらてらと淫靡に光るアナルを広げた。
「はぁ、ぅ・・・こぅま、して・・・」
全身を桃色に染めて、千理は誘う。無意識にカメラを構えた昂眞に、千理の瞳はうるうると急に潤んだ。
「こぅまのへんたい・・・っぐちゅぐちゅの、おしりできもちくするから、カメラなんてもたなぃで・・・レンズごしじゃなくて、ちゃんとぼくをみて・・・」
昂眞はカメラを手放して、千理に覆いかぶさった。




昂眞にとって千理は愛すべき恋人であり、最高の被写体だった。普段の何気ない表情も昂眞の撮影欲を煽ったが、情事の最中のそれは比べられるものではなかった。ベッドの上の千理は貞淑な恥じらいをもちながら、身体を開いて淫蕩に昂眞を受け入れる。その官能の全てを写真に収めることに挑戦してきたが、昂眞の納得がいくものは撮れなかった。直感のようなもので、例え記録の媒体を静止画でなく動画にしても、結果は同じであると昂眞は気づいていた。それでも、可愛らしく美しい千理を前に、瞬間をみすみす逃すことはできない。何か、残さなければという意識に捕われる。

とりあえず、今まではそうだった。

「はぁあん、こぅま、すき・・・すき・・・」
腰を激しく動かして、ずちゅずちゅと性器を出し入れする。昂眞は首に回された千理の細い腕と、耳にかかる甘い吐息に興奮した。カメラを手にしていたときには、千理との間にレンズだけでなく距離があったと気づく。
「ん、ぁっぁっ、ぁん・・・ぁ、ぼく、ぃっちゃぅ・・・こ、ま・・・」
はぁはぁと荒い息遣いの千理。きゅぅと熱いアナルに締めつけられる。
「いっしょに、しゃせ、しょ・・・?・・・ひぁぁっ」
快感にとろけ切った表情を目の前に、昂眞は腰を震わせた。
「こぅまの、いっぱぃ・・・」
注がれた熱に、千理はうっとりとした。

「んっ、ぁ、ぁあっ」
昂眞は自分の下で喘ぎ、身もだえる愛しい千理にちゅっとキスをする。千理が嫌と泣き出すほどに深く愛した。




珍しく暗室の鍵が開いていて、千理は中に入ってみた。暗い暗室の奥にはもう一つ部屋がある。その中は明かりが灯っていた。昂眞がアルバムの本棚の前で立っている。
「昂眞?」
昂眞が振り返る。
「千理。・・・おいで」
昂眞に言われるままに近づいて、昂眞の手元、アルバムを覗き込む。瞬間、千理は真っ赤になって、写真から目を反らした。
「ばか、ばかぁ・・・」
逃げようとした千理の腕を掴んで、昂眞は言う。
「何がだめなんだろう」
真剣な昂眞の表情に、千理は恐る恐る写真を見る。さっきはいかにもな肌色の写真に驚いてすぐに視線を反らしたが、今度はちゃんと見た。
自分ではないような表情。いやらしい顔。それでも、千理はこれが昂眞の撮った写真だとわかる。綺麗だった。千理の美しく淫靡な官能の一瞬を切り取っている。愛されていると思った。
「だめなの?」
聞いた千理に昂眞は、千理はもっと綺麗だと言った。千理は顔を赤くする。
「ぅ・・・ぁの、多分、昂眞が僕を好きなら好きなだけ、実際の僕を脳内で美化してると思う・・・だから・・・」
言葉を濁した千理を、昂眞は優しい瞳で見つめた。
「俺の心理とは、盲点だった」
千理の額にキスを落とす。
「ん・・・。僕はちゃんとここにいるから、写真じゃなくて、僕を見て・・・昂眞の目で、一番綺麗な僕を見て」
身長差から上目遣いで昂眞を見る。
「ああ、そうしよう・・・」
昂眞はうっとりと言うと、千理の唇を塞いだ。


おまけ

「・・・十分使える」
アルバムをめくる昂眞。
「つかう・・・?」
「その手の雑誌なんか相手にならない。・・・寧ろそれなら、目を閉じて千理を思った方がいいしな・・・」
赤い顔を隠すように、千理は昂眞の胸に顔を押しつけた。
「・・・むっつりすけべ」
「今更だろ・・・?」
昂眞はくつくつと笑いながら、真っ当な突っ込みを入れた。
「むっつりは否定しないが、すけべについては千理に対してだけだと言っておくよ」

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